昔から本を読むのが好きで、妄想や考え事が好きで、一人の世界が好きで、文章を書くのが好きだった。周りからは「将来は作家かな」なんて言われて、はにかみながらも夢見た。それでもいつしか、父に言われるがままに進学して、地元の優良企業に就職した。

夢を語るのは、怖い。だから気づいたら、作家の夢はなかったことになっていた。小さな自分を守り続けた。作家の夢を再び語るようになったのは、私が変わったからではない。本来の自分が戻ってきたのはきっと、ちょっとずつ周りの環境が変わっていったからだろう。

◎          ◎

父のDVに耐える母をずっと見てきた私だったが、警察に通報し、それをきっかけに父から逃げ出した。警察が来た夜も、その後の引越しも、たくさんの手続きも、全部が大変だった。でも同時に、父がいた環境では考えられなかった、自由を手に入れた。次第に、私も含め家族みんな、夢を語ることを恐れなくなった。母は働き出し、姉は婚活を始め、妹は大学に通い始めた。

私はといえば、長年の疲れが出たのか、うつ病と診断され休職した。休職中は狂ったように本を読み漁っていた。「書きたい」という気持ちが沸いたのは、そんな日々の中だった。なんとなくネットで検索してみると、世の中ではたくさんの公募があることを知った。

かがみよかがみに初めて投稿したとき、それでもまだ私は、小さな自分を守り続けていた。自分の書いた文章が誰かの目に留まり、評価されることなど、考えてもみなかった。いや、本当はどこかで願っていた。でもそんなことは起こり得ないと、自分に言い聞かせた。実際、投稿してから3週間、4週間と経っても、採用の連絡は来なかった。やっぱり駄目だったんだと、自分を納得させようとした。

だから少し遅れて採用の連絡が来たときは、飛び上がるほどびっくりした。編集部からのフィードバックには、社交辞令が並べられている訳ではなく、ちゃんと私の文章を丁寧に評価してくれている文章が書かれていて、目を潤ませて喜んだ。
そこからの私は、今まで本を読んでいたのと同じ、いや、それ以上の熱量で、狂ったように書き続けた。一度採用されてから、かがみよかがみは特に新しい募集が出るのを楽しみに待っていたが、どのテーマも、私が書きたいテーマばかりだった。

◎          ◎

生まれて初めて受賞したのも、かがみよかがみだった。「わたしたちの強いとこ」がテーマだったが、最初は応募するか迷った。このテーマを書くには、私の最も触れたくない部分、父のDVについて触れる必要があったからだ。書いているときも、投稿するときも、ドキドキしていた。だから何気なく結果発表を見ていて、自分の名前を見たときは、心の底から、書いてよかったと思った。

この受賞を機に、家族や友達にも、エッセイを書いていることを告白した。それまで恥ずかしくて、誰にもバレないように、こそこそと書いていた。この受賞は、私がエッセイを書き続けていいという肯定に思えた。
そして今また、社会は変わろうとしている。私がかがみよかがみに投稿することは、もうない。それは素直に、とても悲しい。

それでも私は変わらない。文章を書くのが好きな私のままだ。まだまだ書きたいものは沢山あるし、今まで書いた文章もいろんな人に読んでもらいたい。
私は変わらない。社会が私の文章に気づくまで、私は書き続ける。