私は気がついた。
持ってこなかったんだった。

3月に上京した。
関西を出て、東京で就職した。
私は半袖を持ってこなかった。
こっちで買っていくより、東京や横浜のおしゃれな店で揃えた方がいいじゃんなんて、思ってた。

いつの間にか過ぎた上京からの2ヶ月間

去年までだったら、間違いなくそうだった。
きっと流行りも変わるし。
荷物も少なくて済むし。
学生時代に気に入って着ていた服は、もうおうちでしか着れないし。

そんなこと考えてた頃から、いつの間にか2ヶ月も経っていて、
その間にしたことといえば、
出された新人研修の課題レポートと、オンライン飲み会、くらい。

毎朝9時に間に合うように起きればいいし、
お弁当も作らないし、名刺交換とか電話応対も、
そう言えばまだしてないな。
こんなの社会人なんて言えない。
でも学生でもない。
私の居場所は、どこだろう。

いつの間にか夏が、そこまで来ていたことに気がついた

久しぶりにお家を出て歩くと、
いつの間にか夏が、そこまで来ていたことに気がついた。
あれ、私たちの春はどこへ行ったんだろう。

これまでの記憶で言えば、
夏になると
ブレザーを着て出会った人たちが
初めてシャツだけになって、
なんか雰囲気違うね~
大人っぽいね~
って言い合うものだった。

ゴールデンウィーク辺りから
ちょっと行く気がなくなって
うだうだいいながら
汗をだらだらかきながら
部活のためとか言って学校に通うものだった。

誕生日が6月だから
小さな頃から半袖の服はたくさん持っていた。
昔から、私が持っている服で
良いお値段がするものも
かわいくてお気に入りのものも
たいてい半袖だった。

「そういうもの」だった。

「そういうもの」は消えてなくなってしまった

私が来た新しい世界には
「そういうもの」
なんて存在しなかった。
正確にいうと私が来たとか来ていないとか関係ないし、
存在しなかったんじゃなくて、消えてなくなったのだけれど。

研修中は暇だから、
やりたいことはその間に始めておいた方がいいよ~
とか、研究室の先輩に言われたっけ。
女子大だからあんま浮いた話なかったけど
社会人になったらすぐ彼氏できるって~って
院に残った友達に言われたっけ。

やりたいと思ってたことに、なにひとつ、近づけていない。

ほんとはもっと勉強したかったからお金貯めて博士課程取るとか、
数年後に万博で盛り上がる地元関西への転勤とか、
学生時代に行きそびれた九州旅行とか、
好きだったけど遠くに異動になった先輩に会いに行くとかも、

やりたいと思ってたことに
なにひとつ、近づけていない。
なにひとつ、先が見えない。
半袖も、買えていない。

あれやっとけばよかった
あの時諦めずに続けとけばよかったって
両親はいつも子供たちに言っていた。
だから私は後悔しないように
ひとつずつ、着実にやっていこうって
そのために先のことを考えて行動しようって
それが、人生楽しむってことだって
「そういうもの」だって
思って生きてきたのに。

今は目の前のことでいっぱいいっぱいで
先の事とか考えられない。
旅行も行けないし、
脱毛もできないし、
半袖も買えない。

大したことないって言うだろうけれど、わたしの人生の中では大切な節目の年

明日死ぬと思って生きなさいって
この言葉、本当にその通りだなって
これまで思ってきたけど、
明日死んだら大好きな人に
会わないままになってしまう。

会いたくても、
思い切って会社をずる休みしたところで、
捨てられるものを捨てたところで
会えない今なのに。

会えないまま、夏が来てしまう。
このまま、秋が来て、冬が来る頃に
どれだけのことが、できるようになっているのかな。

多くの大人は大したことないって言うだろうけれど
わたしの人生の中で
間違いなく大切な節目の年を
わたしは居場所だと思えるものを持たないまま、
そして半袖を買わないまま、終えるのかな。

見たいものを見ないまま
行きたいところに行かないまま
会いたい人に会わないまま
言いたいことを言わないまま
キラキラした思い出どころか
ドロドロしたり真っ暗な思い出すらないまま
なにもないまま

誰にとっても印象的なものであろう
「そういうもの」
になるはずだった社会人一年目を
終えるのかな。

こういう暗い時だから
明るく生きようって思っているし
会いたい人に会いたいよ~なんて泣きつける私じゃないけれど、
突然夜中にこんな気持ちになったりする
こんなくだらないこと、エッセイとか言って投稿してもいいのかしら
とか思いつつ。

そんな、夏を目前にする日々。