「諦める、ではなく、受け入れる」
2年前に美容外科の先生に言われた。
私は自分の外見にとてつもないコンプレックスを持っている。
現在の私の、この捻くれ曲がった考え方はどこから始まったかというと、突き詰めるとほとんどが容姿だと思う。幼少期から繰り返し繰り返し日常的に行われた容姿に対する「いじり」、「ブスであることを弁えた態度を取らなければならない、ブスが自信や自己愛を持っている様子を他人に見せてはならない」というあのぼんやりとした圧、私を嫌う人たちが執拗に挙げ諛う私の外見の欠点、「かわいい子」と並んだときの、自分が明らかに軽んじられているあの空気、メイクやファッションを覚えた頃の、あからさまに変わった他者からの扱われかた、そういったことから始まっていると思う。
中学生のときには、すでに「面白キャラ」として居場所を確保するしかない、と理解してそんな立ち振る舞いをしたし、高校で女子校に入ってからそのコンプレックスは加速した。
一番のコンプレックスである口元を整形しようと思った
高校に入学してから20歳まで、ほとんど整形の事を考えていた。ネットで口コミを調べ、掲示板を読み漁り、美容外科や矯正歯科に資料請求をしたり、ネットに出ている論文を読んだり、時間とお金をかけて美容外科をたくさん回り、いろんな先生の話を聞いた。
目も鼻も頬骨もおでこも生え際ともみあげの形も顎も歯並びもエラも、肌質も髪質も爪の形も体毛の濃さも、頭のてっぺんから爪の先まで全てがコンプレックスだけど、中でも一番嫌なのは口元だ。猿の横顔のように、もっこりと前突していて、美しい顔の要因とされるEラインとは無縁だ。
私はまず口元を下げる施術をしようと考えた。上下4番目の歯とその根本の骨を切って、空いた隙間ぶん口元を後ろに下げる施術。張り切っていろんな美容外科を回るも、行く先々で「あなたは顎がしっかりあるから、このまま口元だけを下げると、逆にしゃくれみたいになって、今度はそっちで悩むと思う」というような意見をもらい、この施術は適応外だった。
残された手段は、歯茎のあたりの骨を横に切って抜き、顔の上半分と下半分を組み直すような施術。これは私にとって最後の手段だ。口元を下げる施術が相場100~150万円弱くらいなのに対して、こちらの骨を切って抜く施術は300~350万円弱くらいかかる。予想外のことにショックを受けたが、それでも何とか気持ちを切り替えて、今度は骨を切って抜く施術の名医を探し東奔西走した。
本命の先生からの言葉に頭が真っ白になった
値段が高すぎて用意できそうにない、手術の予約があまりにも取れない、症例写真が微妙、対応に不安がある…と候補がどんどん消えていった。
最終的に行き着いた病院では、
「骨を切るというのはものすごいリスクがある。全身麻酔になるし、後遺症が残ることもあるし、二度と戻せないし、ダウンタイムも物凄く長く辛い。あなたがすごく悩んでいるのはわかるけれど、現状あなたの口元は、何百万もお金をかけてものすごいリスクを取ってまで、骨を切るメリットの方が大きいとは思えない。
矯正して歯並びを整えて、鼻を少し高くして、相対的に口元が下がって見えるようにするのではどうか。完全などないんだから」と言われた。
その先生は形成外科学会と美容外科学会の2つの認定専門医で、歯科学会にも属していて経歴もすばらしく、調べた中で私の本命の先生で、最後の砦だった。だから、その言葉が本当に悲しくて頭が真っ白になった。私は手術できない。この口元と離れられない…希望の光が消えて、人生が終わったくらいのショックを受けた。
絶望に包まれた。もうショックを隠すこともできず、先生に「では、もう諦めたほうがいいという事ですか」というような事を聞いた。
そうしたら、冒頭の言葉を言われた。
自分を受け入れる。その考えが、私の心を縛る鎖をほどいてくれた
「諦める、ではなく、受け入れる」
言われた瞬間涙が溢れて、嗚咽が止まらなくなった。
私が20年間悩み続けてきた口元。見た目ばかりにとらわれている人間だった自覚はあるが、私にとってこの口元はすべての苦しみの元凶だったし、人生でいちばんの問題だった。ただ口元が人より少し前に出ているというそれだけで、何度も何度も涙を流し、生まれてきたことを悔やんで自分を憎んだ。自信がもてず、何に対しても全力になれなかった。
ブスだから写真に映らない。ブスだから恋愛にもおしゃれにも興味なんて持ってはいけない。ブスだから男子と仲良く話してはいけない。ブスだから堂々としていてはいけない。ブスだから幸せになれない。
自分のことを価値ある人間だと思っていたけれど、小学校から高校までの他者との関わりのなかで、私は他人にとって何の価値もないブスなのだと思い知らされた。自分はブスだからと呪いをかけて、自分自身を隠すことに必死だった。
自分を諦めて生きてきた。
自分を好きになりたくて、好きになって欲しくて、愛されたくて、諦めたくなくて苦しんだ。
諦める、ではなく、受け入れる。
その言葉がすとんと胸に落ちた。
こんな自分を受け入れる。頭の中に1ミリもなかったその考えが、私の心を縛る鎖をほどいてくれた。
自分の大嫌いなところは山ほどあるけれど
2年経った今、私は先生が言ってくれたように歯の矯正をしている。矯正が終わって少しでも口元が引っ込んだら、アドバイス通り、鼻を少し高くする整形もするつもりでいる。
自分の大嫌いなところは山ほどある。だけど、それだって全部が私だけの持ち物だ。
人は変われる。
自分を諦めることなく、裏も表も受け入れて生きたい。