手を喉の奥に突っ込む。
まもなく、胃の奥底から湧き上がっているもの。
全て吐き出したあと、少し満足げな気持ちになる。
ああ、これでなかったことになった。
ダイエットが続かない。何も犠牲にせず、痩せられる方法を探していた
ダイエットが続かない。
私は、平均より少し太っていると思う。それに対して、とても危機意識があったかというとそうではない。
ただ、痩られたら(しかも楽に)いいなぁとは思っていた。
だって、モデルの人はとても細くて、その細い体で着た服はとても素敵で、私が着たら「あれ、こんなんだっけ...?」となるんだもの。
ダイエットを始めたものの、まぁ続かない。言い訳になるのだけれど平日は仕事から帰るのが遅いから、そのあとに筋トレやるなんて元気はなかったし、エステは高いし、食事制限は人付き合いも制限しなくてはいけないから難しいし…。
あぁ、何も犠牲にせずに痩せられる方法はないかな。
そう思いながら日々が過ぎていった。
ある日、たまたま飲み会で飲みすぎて気持ちが悪く、トイレで吐いた。
とにかく気持ちが悪くて、喉に手を入れて無理やり出したのだけれど、その時ふと気付いてしまった。
そうか、吐けばいいのか。
食べても吐けば簡単に痩せられる…。「吐けばいい」と思っていた
そんな些細な出来心のようなものから始まった吐くダイエットは、効果が抜群だった。
特に努力も必要としない。どれだけ食べても吐けばいいや。
気付いたら、4kgほど楽に痩せられていた。
今後も続けていこう、特にマイナスないしと思っていた。
ある日、久々に会う友達と食事に行った。
その子はとても美容が大好きだったので、オーガニックで体にいいものを出してくれるカフェに連れて行ってくれた。
出てくる料理はどれもおいしくて、健康によさそうなものだった。
私は、これを吐くのか。
その時、友達が「おいしいよねー。食べ物って自分を作ってるものだから、いいもの食べたい」と言っていて、はっとした。
私は、結局吐くんだから、何を食べても一緒。だから、一人の時はコンビニ、誰かと行くときはとりあえずお酒が飲める安いところに行って、会話を楽しむだけだった。食事を味わったのなんて、何ヶ月ぶりだろう。
今日の食事が明日の私を作ってくれる。だから体にいいものを食べよう
それから、吐くのをやめた。
吐くことで手に入れたちっぽけな満足感と引き換えに失っていた、食事を味わうことだとか、食べた後の幸せな気持ちだとかを思い出した。
それ以来、料理もするようになった。不思議と食べ物に気を遣うようになると、ちゃんとお水を飲もう、少し歩こうなどという意識が芽生えて、痩せることができた。
ダイエットにおいて私に足りなかったのは、自分の体の声を聞いて、労ることだった。
今日の食事は、明日の私を作ってくれる。だから、いいものを食べようと思う。