鏡に映ったおじさんの正体は。思わず生唾をごくりと呑んでしまった

ショッピングモールの大きな鏡には、小汚いおじさんが映っていた。
「あ、あれれ?おかしいな?」
鏡からじりじりと後退して、目を何度もぱちくりさせる。
そのおじさんの正体が自分自身だと気が付くのに、
いや、認めることにたっぷり10秒はかかった。

ぎゃあああ。
そう叫びたかったけれど、ショックが大きすぎて、生唾をごくりと呑んだ。

「わ、私、おばさんを通り越しておじさんになってる……!」
ヘンテコなメッシュの入った癖毛もりもりの頭に、
ぜい肉たっぷりの二の腕にでっぷりお腹。
処理の甘い腕毛とシミになった日焼け後。
追い打ちに、体型カバーに着ているアロハ柄のシャツ。

「ありのままでは美しくなれないんだ。」
私は、つぶやいた。

美しくなれないんだ、なれないんだ、なれないんだ!
不思議なことに、私はいままでにないほど清々しい気分になった。

見えてないふりをしていた言葉たちが物凄い勢いで繋がり始めた

数年前、ありのままの姿を推す歌がはやっていたけれど、
私に必要だったものは厳しい真実の言葉。

「ありのままってなにもしないことじゃないんだよ」
「美しくなるために必死に努力する姿が綺麗ってこと」

見えてないふりをしていた言葉たちが物凄い勢いで繋がり始めた。

「そうか。私、綺麗になろう。ちゃんと努力しよう」

憧れの人は宝塚の娘役さん。
髪はさらさら豊かに広がり、
夢のように美しいワンピースを着て、妖精のように軽やかにほほ笑む。

世の中には女神のように美しい人がいる。
生まれつき綺麗な人はいいよねって卑屈になっていた時もあったけれど、
女神たちは私の味方だった。

「癖毛で美容院にはこまめに通っているんです」
「スタイル維持のために努力は欠かせません」
「この化粧品は、ラメが細かくて顔が綺麗に見えますよ」

たくさんのアドバイスが私を綺麗にしてくれた。
言葉をそのままに受け止める。
そしてすぐにチャレンジする。

面白そうなものにはいち早く飛びついて、みんなと一緒に熱狂を

美容だけじゃない。
この世界は挑戦、挑戦、挑戦。
面白そうなものにはいち早く飛びついて、
みんなと一緒に熱狂する。
楽しい、嬉しい、わくわくする。

そんな生命の喜びを心臓から指の先まで感じる。

あなたの本当の望みはなに?
その望みはあなたの心に合っている?
誰かから押しつけられたものではないの?

私は綺麗になりたい。
大輪の花のように鮮やかで、自分1人の足で立つの。
かよわい脆さなんていらない。
誰かに守ってもらう必要はもうないの。

過去の私は、華奢になりたくて減量を続けた。
そして心を失った。

一度は美容から逃げ出した。でももう、誰かのためにするものじゃない

自分の価値を示すのは、他人の視線。
そんな生活に耐えられなくなって、私は美容から逃げだした。

美容なんて大嫌い。もう絶対にしない。
逃げて、自分の殻に閉じこもった。
あっというまに太って、髪はぼさぼさ。
道を行く人は私には見向きもしない。

爽快だった気がする。
世間の美の物差しから外れて。
対象外の存在になって。

もう、自分には関係ないの。
美容は綺麗な人がさらに自身を高めるもの。
私には、関係ないよ。
関係ない。
そうだよね。
そう……だよね…….。

違う!!
わたし、気が付いてよ。
美容は誰にとっても素敵なことなんだよ!
わたし、目を覚まして。
お願い。

自分に呪いをかけないで……!!

あの時の経験が必要だったと思いたい。

「大丈夫、きっとそうよ」
未来の私が声をかけてくれた。

今は美容のことを愛おしく感じる。
だってもう美容は誰かのためにするものじゃないから。

自分のためだけに綺麗になるの。
自分の力だけで道を進むの。

同じ道を行く人はいない。

でも、綺麗な髪の毛が私を包む。
輝くアイシャドウが燃える瞳を彩る。
唇は強い意志で赤く光る。

いつも、きっと、これからも。
美容という仲間たち。

一緒に人生を冒険しようね。
ずっと、ずっと、一緒だよ。