私は父の体質が遺伝し、腋の体臭が強い体質だった。その事に気づいたのは思春期真っ只中だった中学生の頃。人より自分の体臭がきつい、汗が服に染みてにおう…ショックだった。

兄弟4人いて、私だけが体臭がきついこと。
「遺伝だから仕方ない」
そう思って諦め、におわないよう気をつけるようにするしか出来ない。しかし、何気なく「くさいよ」や、「におうよ」と姉に言われる度に、憤りを感じた。体臭が遺伝しなかった姉を憎み、その姉の態度に傷つき自分が汚いもののような気がしていた。この体質は恥だといつしか私はそう思っていた。

また、そんなこと気にするなんて馬鹿馬鹿しいと言うくせに、平気で人に対して無神経なことを言える父か憎くて仕方なかった、全ての元凶は父なのではないかとすら思った。

不安は全て拭えなくても、500円の香水と制汗剤が頼りだった

ましてや思春期。体育の授業だけでなく、通学だけでも汗ばむ。友人は言わないだけで私のことをくさいと思っているのではないか。影で言われているのではないかと気が気ではなかった。

今思えばおかしな話だが、中学校では無香料以外の制汗剤の持ち込みは禁止されていた。教師に見つかれば没収される。ただでさえにおいが気になるのに無香料だなんて!隠れてトイレや部室で香り付きの制汗剤を使うしかなく、時には汗を拭けないこともあり、気軽に友人に近づくのも怖いほど自分のにおいに怯えていた。

父方の祖母も同じ体質で腋の汗腺の手術を受けた後、腋に手術痕が残ってしまった話を聞き、手術も考えたが、痕が残ったら…と思うと踏み切れず、手術代も安くはない。更に、家族からは私1人気にしているだけと思われているようで、手術したいと頼むのもどこか恥のような気がして頼めなかった。

そんな私が頼ったのは500円ほどの薬局などで売っている香水だった。高校では香りつきの制汗剤の使用は禁止されていなかったが、頻繁に制汗剤を使うのも気が引けて、高校生の頃から毎日のように香りすぎない程度に香水をつけはじめた。それで不安が拭えた訳ではない。夏が近づくと毎年自分のにおいに怯える日々。

その頃から、手術について詳しく調べ始め、社会人になったら手術をしようと考え始めた。どうしても親に真剣に腋の体臭で悩んでいると言い出せなかった。自分のお金で払えるようになったら家族にも誰にも知られずに手術をしようと考えていた。

残されたメモを見た途端、目の前が真っ白になり手術を決心した

そんな私が手術をしようと決めたのは社会人になる前、大学4年生の頃。きっかけとなった出来事は親にも誰にも話していない。人に話すのも、思い出すのも嫌な出来事だった。

それはある夏の日、夜行バスに乗って目的地についた朝のこと。ペットボトルをしまおうと手に取った時、レシートが挟まっていた。身に覚えのないレシートを見ると、裏に「まじワキガ」と書きなぐってあった。目の前が真っ白になった。

あの時の感情を上手く言葉にできない。激しい怒りと惨めさで気がおかしくなりそうだった。夜行バスに乗る前に念入りに汗を拭いてにおいケアをしたつもりだったのに。

私の事ではないかもしれない、と思いたかったが、無理だった。家に帰って泣きながら何も考えず整形外科に予約を入れた。こんな思いはもうしたくない、体質なんだから仕方ないなど思ったところで、周りの人からしたらくさい人なのだと惨めで、自分が汚らしいものに思えた。

無神経に傷つける姉の言葉。同情するくらいなら謝って欲しかった

当時一人暮らしをしていた私は整形外科で診断を受けた後、手術を受けることを決意した。親にも言わずに手術を受けるつもりだったが、手術代の問題があった。ローンを組むにしても保証人が必要で、親に言うほかなく、精一杯平静を装って事実だけ伝えた。話しながら惨めで涙が滲んだ。

1~2時間の施術だったが、手術など経験したことのない私は怖くて仕方なかった。そばに家族がいたら泣いていただろうが、1人で手術をうけた。しばらくは腋をあげることも出来ず、お風呂にもまともに入れず、かすかな痛みを抱える日々を数日過ごし無事汗腺を除去した。

なぜ、こんな思いをしなくてはならないのか。悔しかった。レシートの裏に書かれた言葉を見たときの感情は言葉に出来ないし、思い出したくもないが、そのことがあって手術をする気になったのだから良かったのかもしれないと思い込むようにしていた。手術をして、完全には治らないものの、においは酷くなくなる。それだけでも救いだ。

そんな私に姉が、
「手術するほど思い悩んでたなんて可哀想に」
と言った。
惨めで惨めで仕方なかった私をさらに打ちのめす言葉に、悔しくて、惨めで仕方なかった。

人の気持ちも知らず、汚いもののように「くさい」と平気で言って傷つけてきた姉が私のことを可哀想だなんて。何様なのだろう。私の辛さは私にしか分からない。

同情するくらいなら謝って欲しかった。
何も知ろうともせず平気で傷つけてきた自分の無神経さを。

人それぞれある体の悩みや辛さは当人にしか分からない

手術以後も私は不安で香水が手放せないでいる。毎日染み付いたその香水の香りがしていないと不安なのだ。常に鞄の中に入れて持ち歩き、なくならないよう補充して。あんな惨めな思いは二度としたくないと思えば思うのほど忘れることも出来ない。もう大丈夫なのだとも思えない。そして社会人になった今も手術費のローンを払い続けている。

体の悩みは人それぞれ、その辛さも当人にしか分からない。時には寄り添おうとするこがかえって傷つけることにもなると知って欲しい。分かり合えない部分は必ずしもあるのだ。

私も無神経に人の体の悩みを理解せず傷つけているかもしれない。そして体の悩みはセンシティブではあるが私の場合の手術のように解決法がないわけではない。私も、どう向き合うか一緒に考えてくれる人が欲しかった。

私の話が誰かの役に立つかは分からないが、悩み続けた私のためにもこの話を書こうと思った。