私は、すごくすごく静かに泣く。
すすり泣く時の鼻の音さえ立てないで。

幼いころの私は、眠る両親のそばで毎晩静かに涙を流した

きっかけはなんだったっけ。
三人兄弟の末っ子の私には、中学生になるまで自室がなかった。
生まれてから約10年間、両親と一緒の寝室で、所謂「川の字」の状態で眠る生活を送っていた。
私はなんだかとてもナイーヴな子供で、小学校中学年頃から、毎晩寝る前に泣いていた。
特に理由があったわけではない。
いや、きっとあったのだけど、10年後の今、ハッキリとは思い出せないほど些細なことだ。
『強く気高く美しく』が口癖で、他人に屈することを何より嫌う母の横で泣くことは、幼い私にとってはとても耐えがたいものだった。
母からはできるだけ距離をとって、できるだけ窓辺に近づいて、窓に浮いた水滴が見えるほどの距離で、私は泣いた。
母にバレぬよう、子供ながらに努力して。
いつの間にかそれが習慣づいて、高校生になる頃には、本当に静かに泣けるようになった。
好きな男の子に振られた日、部活の大会で負けた日、いけ好かない教師に罵られた日、私はいつも音を立てずに泣いた。

親しくなった男の子にも、涙は気づいてもらえなかった

大学生になる頃には、「もしかしたら、これはなかなか特別なことなのかもしれない」と思うようになった。
生まれて初めての恋人ができた時、嬉しくて悲しくて、彼の横で何度も音を立てずに泣いた。
彼が、皆の前でわんわん泣くあの子のことを好きになってしまったと言ってきた時も、私は彼に見えないところで静かに泣いた。
その次に仲良くなった男の子には「私はとても静かに泣くので、それに気がついて欲しい」と自分から告げた。その男の子はとても優しい人だったので、私が泣いていないかいつも気にしてくれていたけれど、それでも最後に会った時に「泣いてたの?ごめんね…分からなかった」と、とても悲しそうな顔をして言っていたのが忘れられない。

誰にも気づかれなくてもいい。私だけが私の涙に気づいてあげたい

私は、すごくすごく静かに泣く。
映画のワンシーンのように、一筋の涙だけが頬を伝って、鼻と頬が少しだけ赤らんで、眉頭に少しだけ力が入って、それだけ。それだけが、私の涙だ。
本を読んでも映画を観ても、好きな人が好きすぎる時も、本当に悲しい時も、苦しくて苦しくてたまらないときも、私は一切の音を立てずに泣く。
もっと分かりやすく泣く女になりたいと思ったことも何度もあるけれど、
けれど、私は私の涙が好きだ。
誰にも気づかれなくても、静かに頬を伝う涙と、その静かな泣き方が本当に愛おしい。
誰にも気づかれないように泣く私に、私だけが気づいてあげて、私だけが「大丈夫?」と声をかけて、抱きしめてあげたい。
「声を上げて泣いたっていいんだよ」という言葉を、心の中で自分自身に投げかけて、私は今日も静かに泣く。
誰もいない寝室で、誰にも気づかれないように。