118分、私はキム・ジヨンだった。
私が彼女に乗り移ったのか、彼女が私に乗り移ってきたのか、わからない。だけど間違いなく劇中のキム・ジヨンとして生きた。私の、物語だった。
エンドロールが流れる中、自分を取り戻した私は自然と溢れていた涙をぬぐいながら深く息をついた。そして”私自身”になった瞬間湧き上がってきた、ある感情に気が付いた。ふつふつと湧き上がるそれを、なんと表現していこうか。

映画を見終わって我に返った時、湧き出てきたのは怒りだった

その感情に触れる前に、この『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説について簡単にご紹介しよう。
2016年に韓国で出版され、その後各国でも爆発的に売れたフェミニズム小説である。日本でも16万部を突破する大ヒット小説だ。原作をお読みの方はもうご存知だろうが、この物語はキム・ジヨンの幼少期から現在まで、ジェンダー問題を交えながら女性としての生きづらさを描いている。
なお、カルテの内容を淡々と語る原作とは違い、映画は別の手法で彼女の人生を描いていることをここに記しておく。原作にはない部分も多々あるが、その部分で私は何度も大号泣した。期待していただいて問題ない。

ジヨンを中心として進んでいくこの物語は、たくさんの登場人物が出てくる。彼らと様々な言葉を交わす中、どうしようもなく、私は息苦しかった。それが優しい言葉だとしても、もやもやする。噛み合わないパズルのようで、むりやり押し込められ私は欠けた。私はどこにもはまらないピースになってしまった。浮いてしまった私は、社会のどこにも居れない気持ちになった。これが映画中のキム・ジヨン――いや、私の感情だった。
ここで冒頭に戻る。私が我に返った時湧き出てきたのは、真っ赤なマグマ、そう、それは怒りだった。私は怒りたかったのだ。感情を爆発させて、私が悪いの!?私がおかしいの!?って叫びたかった。元来私は怒りっぽいのだが、ジヨンになっていた時間はその怒りを自然と抑えていたようだ。けどいざ自分自身に戻った時、ああ、腹立つ、なにあのお父さんの言い草!「スカートを短くするから悪いんだ」だなんて!?痴漢する方が悪いに決まってんじゃん!お義母さんも、デヒョンも!ああもう!と怒り狂っていた。ジヨン!我慢しなくていいよ!と手を取って抱きしめてあげたくなった。
半面救いだったのが感情を爆発させたジヨンの母ミスクの言葉だった。劇中何度泣かされたか。私の言いたかったことを怒りとともにドカンと代弁してくれて、本当に救われる気持ちだった。

声を上げるのは勇気がいる。だけど私は伝えていきたい

そうだ、この作品は、代弁者に近いような気がする。
作品を通して、今までぼんやりと抱いていた違和感が可視化された。小説から飛び出し、人が演じることでよりリアルに見えてきた私たちの痛み。手に取れるようになってようやく理解する。「私も日々無意識に差別を受けていたんだ」と。気づいていないだけで、差別は側にある。お客さん来たからお茶出しといてね、も、女性でこの仕事続けていくの無理だよね、も。自分の中の”普通”という概念が崩れ落ちる。"普通"って、なんだ?「女だから」って、それおかしくない?と今なら言える。
違和感は顕在化することで、初めて人に伝えられる形となる。逆に、気づけた人しか伝えられない。なら、気づいた私が、次に代弁者となる番だ。この性差別の現実を、この作品を共有していきながら伝えていきたい。そうして”普通”を壊して、新しい世界を組み上げていく。
私たちは危うい視線や痴漢を気にせず着たい服を着るし、仕事だってバリバリやっていくし、昇進していきたいし、結婚や子育てだって、選びたい道を自由に選ぶ。
声を上げるのは勇気がいる。誰だってできることではない、と私は思っている。だけど私はやってみたい。少しずつ、伝え方を考えて、工夫していきながら。
その1歩として、背中を押し、繋がっていき、変わるきっかけを後押ししてくれるこの作品を、数多くの人と共有していくんだ。

最後に、私の周りの原作読破済みの友人たちは、映画予告の「共感と絶望から希望が生まれた」に異議を唱える人も多かった。たしかに、この原作は希望の物語とは言い難い。ではなぜ「希望の物語」としたのか。
詳細は語らないが、映画のラストには微かな希望があった。ただ、私はそこだけを持ち上げて「希望」だとは言わない。だけど、この作品をきっかけに性差別についてより多くの議論ができるようになったり、性差別自体が減っていくならば?それは希望と言えるのではないだろうか。

この作品は、私たちが今後紡いでいく未来へ続いている。
この作品こそが、希望の種だと、私は思いたい。

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