そのとき私は、しゃべる相手がいなくて、一人さみしく座っていた。そんなとき「さちちゃん」とA君に声をかけられ、彼が私の隣に来た。
その後A君に言われた言葉が、7年経った今でも、私を元気づける魔法の言葉となっている。
大学で知り合った、「コミュ障な私」と正反対の性格のA君
私は、根暗で人見知りが激しい、俗にいう“コミュ障”である。コミュニケーション能力が低く、よっぽど波長が合う人やコミュニケーション能力が高い人じゃないと、会話が弾まない。
そんな私にも、大学の部活を通じて“根明(ネアカ)”のA君という友達ができた。A君はジャニーズ系のイケメンで、おまけにフレンドリーで優しいという、THE・モテ男であった。
大学2年生の春、新入部員の勧誘に参加することになった。もちろん私にとって、苦痛な仕事であった。新入生が見学に来る日、私は事前に話題を考えてきたものの、話をうまく広げることができなかった。
その結果、一問一答となってしまい、用意していた話題はあっという間に尽きてしまった。「これじゃあこの部活楽しそうとは思わないだろうなぁ…。相手したのが私でごめんね」と心の中で謝り、自分の至らなさを反省した。
孤立していた私に、A君が言ってくれた「魔法の言葉」が嬉しかった
その後、飲み会があった。私のいるテーブルはいつの間にか人が減っていき、過疎化していた。コミュ障としゃべってもつまらないから、みんな移動していくのである。
孤立した私を見て、A君が気を遣ったのか「さちちゃん」と声をかけ、隣に来てくれた。「人とうまくしゃべれなくて、新入生の勧誘もろくにできなかった」と私は、A君に相談した。するとA君は「しゃべりなんて、男が頑張ればいいんだよ。俺は、しゃべるの苦手なとこも含めて、さちちゃんの魅力だと思ってるよ。だから気にしなくていいよ」と言ってくれた。
相談したつもりだったのに「気にしないでいい」と言われた。しかも、「さちちゃんの魅力」って…。胸キュンどころではない、クリティカルヒットだった。私はその瞬間、A君に恋に落ちた。
でも、すぐにA君に彼女がいることを思い出し、生まれたばかりの恋心をもみ消したのだった。
家に帰って冷静になってから、私は考えた。A君がコミュ障なところも私の魅力として受け止めてくれたのは、A君の器が大きいからというのはもちろんだが、私がA君に心を開いていたからだろう。
下手なりに一生懸命伝えようとしていることに気づいて、それを私の良さとして捉えてくれたのではないか。きっと心を開いた相手には、しゃべりたい、もっと仲良くなりたいという思いが伝わるのだ。私は嬉しくなった。
そして、こうも思った。万人から好かれ、たくさんの友達を持つ必要はない。私が好きだと思った人達にだけ、心を開いて、狭くて深い関係を築いていけばいいのだと。
皆から好かれなくていい。前向きにしてくれる魔法の言葉があるから
社会人になってから、大人数の飲み会に行く機会が増えた。
あるとき私は、参加者の半分以上が面識がない飲み会に参加する羽目になってしまった。私を含め6人いたテーブルは、3人まで減り過疎化していた。
過疎化したテーブルを見た他のテーブルの男が、笑いながらこう言い放った。「このテーブル、人気ないっすね~!」たった一撃で心がズタズタになった。
深手を負った心に手当てをするため、私はA君の魔法の言葉を思い出す。