霧村禾穂、文筆家。
エッセイや短編小説を書いていて、出版系の業種で今後活動を考えている新人である。
今はnotoやSNSを使って、それらの文章や書き下ろしエッセイなどの投稿を行なっている。

私が霧村禾穂と名乗るようになったのは、2019年9月。
一人でライブハウスへ行った帰り、出ていた歌手の熱量を全身で浴びると、その勢いで文章を公開しようと決断をした。

これまで細々とエッセイや小説を書いて満足していた私だったが、作品数が増える度、いつしか見てもらいたいという気持ちがふつふつと湧いてきていたのだ。
公開するため、名前は好きな秋の季語を使い、こうして私の文章は、“書くだけ“から“見せる“ものへと変化することとなった。

私の文章が喫茶店のSNSに載るかもしれない

文章を公開し始めて、約一年。
最近、執筆のため通っていた喫茶店の店主から「うちのSNSを使って文章を載せてみる?」と提案があった。
喫茶店に通い始めた当初、軽い雑談の中で「エッセイを書いています」と伝えたことを覚えていてくださったらしい。

その方はとても気さくで話しやすく、私の執筆の話や、SNSの話もすることができた。そしてそれらを、面白がって聞いてくださる。
「私の文章が喫茶店のSNSに載るかもしれない」。物凄く嬉しい提案だったけれど、その時私の頭を占めていたのは、とてつもなく大きな不安だった。

不安と喜びが行ったり来たりして、破裂しそうだった

私は活動をしていく上で、個人的な情報を一切明かさないと決めている。
それは性別や、年齢や、住んでいる地方でさえも、である。
その意思は強く、ある意味ネットリテラシーをしっかり持っていると言えるだろう。

そして喫茶店のSNSには、当たり前なのだが「◯◯市」と住所の記載がなされている。
近所の喫茶店であるがゆえに、ここから私の住居などがバレてしまうのでは、と激しく思った。

不安、不安、不安。
けれどこれがチャンスなのは確かで、フォロワー50人にも満たない私のSNSと、200人以上にフォローされている喫茶店のSNSとでは、見られる人の数は歴然だった。

嬉しい、とても。けれど不安、不安、不安。
不安と喜びが行ったり来たりし、頭の中がそれらで破裂しそうだった。

喫茶店からの帰り。車に乗り込み、気持ちを落ち着けようとゆっくり、ゆっくり家路につく。
そして店主へ「個人的な情報を載せたくないと考えていますが大丈夫でしょうか?」とした上で、「投稿、してみたいです」と、震える手でメッセージを送信した。

一週間後。
「20時頃着きます」と店主にメールをしていた私は、19時40分を指す携帯を慌てて閉じると、原稿用紙をまとめて喫茶店へと走った。

お店の前でふーっ、と呼吸を整える。
店主との初めての打ち合わせが始まる。
原稿は、書き上がらなかった。

“フォロワーを増やしたい“けれど、“個人情報を出したくない“

元々は、文章を読んでくれる人を増やしたいから、という理由で始めたSNS。
けれど更新を続けていくうち、“フォロワーを増やしたい“ことと“個人情報を出したくない“という気持ちの狭間で、投稿しづらいと感じることが増えていった。

投稿したい!と思う出来事があっても、“女性だとバレてしまうのでは“、“住んでいる土地が分かるのでは“と、二の足を踏んでしまう。
少しでも、不安が出てきてしまう投稿は今後のためにもなるべく避けたい。

そうなると手が止まり、更新方法が分からなくなっていく。
書き溜めた作品も少しずつ減っていき、焦りばかりが募っていった。

理想を言えばもっと、私自身が楽しみながら運用をしていきたい。
自分の描ける範囲内の出来事を、エッセイや小説の形で少しずつ書き上げていきたい。
きっとまたいつか、頭の中を不安が占めて動けなくなったりもするのだろう。
そうして時に泥臭くもがいたり、葛藤したり、繰り返しながら作っていこうと思う。

これが今の私の、最大の矛盾と葛藤である。