お母さんへ。
もう2年ほど連絡を取っていませんがお元気ですか。
私は元気です。

家事に育児に仕事…今思えば、お母さんの負担が不当に重かったよね

お母さんは、いつも「母の日や誕生日には、プレゼントではなくて手紙がほしい」と言ってたけど、ずっと拒み続けていてごめんなさい。実は何度か書きました。書き出したら止まらなくて、便箋10枚以上にわたって、今までの恨みつらみが出てきました。要約すると「もっと甘えたかった」っていう、すごい幼くて恥ずかしい内容です。

お母さんが求める手紙って「大好き!」「産んでくれてありがとう」という言葉だよね。受け取ってもきっといやな顔するだろうし、結局送らずに今も手元にあります。

お母さんって、いつも忙しそうだよね。お父さんと結婚して、私と妹を産んで、家を建てて、フルタイムで働いて、家事もして、親戚付き合いもして、学校行事にも参加して、お父さんと離婚して、新しい旦那さんと結婚して、また家を建てて。“今を楽しく生きる”が、モットーのお母さんらしいなと思います。

なんでお母さんとお父さんって、離婚したのかなと時々考えます。今思えば、お母さんの負担が不当に重かったよね。家族みんなでおばあちゃんの家に毎週末ごはんを食べに行くとき、お父さんや叔父さんは座って待ってていいのに、お母さんや私や妹は配膳してたね。あとからお父さんに聞いたら「おばあちゃんに『男は動かなくていい』と牽制されていた」って言ってたよ。

今思うとおかしいけど、少し前まで特に田舎は、そういう空気があったよね。女は家のことをして当然で、外で働くのはそこに支障ないようにという無言の圧力、当時はすごくかかっていたんではないかな。

周りを優先していたお母さんに「自分のための時間」があるといいな

新しい旦那さんとの結婚生活、10年目に入ったそうですね。今は、旦那さんのお仕事を手伝って、おばあちゃんの介護もしてるんだとか。趣味のコーラスやピアノ、やっていますか。周りのために生きてきたお母さんが、すこしでも自分のための時間が持てているといいなと思います。

そういえば、新しい旦那さんは「太ってるから一緒に歩きたくない」と言わないタイプかな。私もあれは、お父さんがひどいと思うよ。お母さんが太り出したのは、家事や育児、仕事、親戚付き合い、いろんなストレスがあってのことだよね。奥さんの見た目をこき下ろす旦那さん、今ならモラハラだって怒る案件だよ。お父さんの考え方が、もし今の時代にアップデートされていたら言わなかったと思う。

私が高校生のときだったか、お母さん初めて管理職になったよね。部下が表彰されたのを、うれしそうに話していた姿を覚えています。女性の管理職を増やそうという動きが始まったばかりの頃だから、制度としても整っていなくて大変だったんじゃないかな。ああいうときに晩御飯の一つも作る手伝いせずに、ごめんなさい。

女であり社会人であり、長女である私とお母さんは「似ている」

最近、私自身が社会から“女性”として求められる負担に、疲れるようになりました。よき社会人たれというプレッシャーだけでもしんどいのに、更によき母であれ、よき妻であれ、なんて、こなせる気がしません。私一人を自分で生かすのもしんどいのに、ましてや新たな命を産んで育てようなんてとても出来ないです。それをお母さんは、今の私と同じ歳で決意してやったんだね。ありがとう。

私、まだお母さんに会えそうにはありません。手紙も送れそうにありません。お母さんを悲しませない言動ができる子どもだという自信がないんです。いつも忙しそうな母親に甘えられずに育ったという子どもの私が、まだ心の中にいるんです。

でももしかしたら、親子であることを一旦忘れて、29年来の友人のようになら、そのうち会えるかも知れませんね。私とお母さんは似ています。女の肉体を持ち、社会人であり、長女です。同じ目線で話せるときが、きっといつかくると思うんです。

それまで、どうか元気でやっていてください。あの眺めのいいベーカリーカフェで、同じ悩みを抱える者同士として、フラットに話せる日を楽しみにしています。