私の恋愛は自分から誘って始まり、自分から別れを告げて終わる。

今思えば、私はただセックスをしてくれる人を探していただけかもしれない。

「私の体を使って自慰をして。私は『私を見て興奮する男の姿』を見て満足するから」 と心の中で、ずっと思っていた。

中学までは「デブ」と罵られイジメられたが、生放送配信サイトで、複数の人から胸とプロポーションを褒められたことをきっかけに、私の唯一の武器は胸なんだと思い込んだ。

それまでは、自分の体を馬鹿にされる視線しか知らなかった。 私は人に羨ましがられるような視線を集めることができる人間なんだと思ったら、ワクワクした。 だから、胸だけが取り柄な自分でも、付き合ってくれそうな童貞や胸好きな人を選んだ。

男性の体やセックスを知ることで知的好奇心は満たされたが、 体を売るような気持ちでいる私は、自分をずっとひとりぼっちにしていた。

これから話すのは、そんな私を変えた彼との出会いである。

上司のことを好きになり、仕事を頑張って「彼を応援しよう」と決めた

就職して数か月。新しい上司がきた。他の上司や同僚曰く、彼は「いつもふざけて適当なのに成功してる。優しい掴みどころがない人」らしい。私は、その新しい上司を3日で好きになった。

まずその人は、初対面で私の胸をほとんど見なかった。こういう男性は珍しい。1日目はそれにも驚いたが、何より彼は仕事ができる人だった。洞察力や先を見据える力に長けている。口が回り、よくふざけるため、すごさは分かりにくいが、明らかに経験を積んできた人だということがわかった。

2日目には、部下を電話越しに怒鳴っていてドン引きした。

しかし、3日目の朝に真っ先に昨日のことを謝ってきた。「いくら相手が悪かったとはいえ、関係ない君の前で怒って、嫌な気分にさせて申し訳なかった。もうしないよ。」と言った。後に部下が人としてやってはならないことをやっていたことも分かり、私も納得した。そして、彼を好きになっている自分にも気づいた。

しかし、彼は私の胸に興味がない。 どうすればいいのかわからない。でも、自分の武器はそれしかないのだから、諦めるしかない。いっそ彼を推しにすればいい。とにかく仕事をめちゃくちゃ頑張って、彼を応援しよう!と決意した。

それから私は、できないなりに仕事に打ち込んだ。早く出勤し、残業する日々。たまにサービス休日出勤もした。迷ったら彼に聞いて、すぐに実行した。その努力もあってか、会社から与えられた厳しいノルマを達成することに成功した。

胸が大きい以外の理由で、私を好きになってくれる人がいるなんて

辛くも楽しい日々が続く中、ある日仕事が終わらず、終電を逃した日があった。

私が落ち込んでいると彼が急に「近くの俺の家に行くルートと、何万も使ってタクシーで帰るルートどっちがいい?」と聞いてきた。 私は、真っ先に彼ルートを選んだ。

シャワーを借り、テレビを観ていた私は「まだ期待するには早い!」と心に言い聞かせながら、シャワーから出てくる彼を待った。

彼はシャワーから出てくるなり、適当なテレビの話をして、それから私の名前を呼んだ。私の目の前に座った彼の目はまっすぐだった。 いつも明るくふざけているのに、その時だけは真剣だった。

そして、彼の両手はゆっくりと私の両腕を掴み、しばらく目を見た後ゆっくりと唇が重なった。

「...いいの?」
抵抗されなかったことに安堵した彼。私は期待していた展開のはずなのに、驚いていた。
「...相手にされないと、思ってました。歳がすごく離れてるし」
「そういうの気にしないから。...というか...あんなに一生懸命頑張ってて...好きになっちゃうでしょ...」

彼は私の両腕から手を離し、右手で自分の顔を覆った。 驚いた。そんな理由で、私を好きになってくれる人がいるなんて。そうか。彼は私を“ただの胸の大きい女の子”ではなく、“頑張る人間”として見てくれたんだ。

驚きで瞬きしかできない私を、彼は抱き締めた。赤くなった顔を隠すように。私は、力なく彼の洋服を掴みながら答えた。

「大丈夫です!私はずっと好きなんで!だから...」
「...じゃあ遠慮なく」

自分の「武器」は誰かに見せるためではなく、誰かの役に立つために

後に彼は夫になったが、彼曰く胸には本当に興味がなかったらしい…。

視線に惑わされる人生だった。しかし、1つの武器だけを見せびらかしている暇なんてない。 というか、武器にすらなっていない人がいる。

まだまだ人間として、磨かなくてはならない武器がたくさんある。 誰かに見せるためではなく、誰かの役に立つために。

…と、かっこいいことを言ったとしても、彼の視線を奪うために画策するのが女というもので。でも、なんだかその視線に踊らされるのは、嫌いじゃないの。