太った彼女になりたい。
中学生の頃、初めて出会った時からそうだった。彼女は本当によく食べる。
晩御飯はハンバーグに大盛りごはん、ポテトまで頼んじゃって、2軒目に入ったカフェではホイップ盛り盛りドリンクにケーキを頼み、みんなに「本当によく食べるね」と言われながら美味しそうに全て平らげる。
彼女の胃はどうなっているのだろうか。高カロリーなものしか食べられない口なのだろうか。彼女の頼むハイカロリーな食事のオンパレードに突っ込みたいところは山ほどあるが、彼女のように好きなものを好きなだけ食べることができれば。と、強く思う。
そんなことを言いながらも、食べたいカツカレーを我慢してチキンステーキをご飯なしで注文し、ブラックコーヒーで1日を締める私は、彼女のようになりたい。という気持ちと同じぐらい強く、彼女のようにはなりたくないという気持ちが存在するのかもしれない。
可愛い女の子になりたいという憧れは叶ったけれど...
体型にコンプレックスを持ち始めたのは高校生になった頃だった。
160cm48kgと比較的華奢だった私は、思春期を迎えるとともに60kgまで一気に体重が増えた。それと同時に、みんなからいじられることも増え、クラス会などの残飯処理係として体を張った青春時代を過ごした。
クラスの可愛いグループの子達を横目に、私は私と言い聞かせ太っていると言うコンプレックスに敢えて目を向けないようにしていたが、10代の私にとって体型をいじられることへの恥ずかしさや、可愛い女の子になりたいという憧れは捨てきれないままでいた。
大学進学と同時に徐々に食欲も体重も落ち、気づけば50kgを切った私は、いわゆる「痩せて人生変わりました」ルートを歩み始めた。
周りの男の子たちはみんな私を可愛いと言う。周りの女の子たちはスタイルがいいねと言う。調子付いた私は更にストイックな食事制限を始め、気づけば45kgを切っていた。その頃には、太ったらまたいじられる人生を歩まなければならない、ずっと憧れていた可愛い女の子扱いを受けれなくなってしまう、そんな思いが四六時中私を支配するようになった。
「可愛いね、痩せてるね」の言葉は褒め言葉からプレッシャーに
痩せていることが人としての魅力ではないことは理解しているが、太ることで自分の価値が無くなってしまうような気がして、太ることに近づく一切のことを遮断するようになった。揚げ物は食べない、ケーキも食べない、カロリー表記のないものは食べない。やむを得ず食べなければならなかった日には、食後全てトイレで戻した。
そんな生活を続けた私は、摂食障害になり、まともな食生活を送れなくなってしまった。「可愛いね、痩せてるね」と言われるたびに、嬉しくもこれ以上太れないと言うプレッシャーに変わり、自分の見た目だけを磨くようになってしまった。
何度も言うが、頭では分かっているのだ。人間は中身だと言うことが。けれど体がもうその考えを超えてきてしまっている。
食べたいものを食べたいだけ食べる彼女が心の底から羨ましい
だから私は太りたくないし、太れない。痩せこそ全てだという考えに囚われ切った私は、彼女のように膨よかな体型になることは恐怖で仕方がない。それと同時に、太っていても魅力的で、食べたいものを食べたいだけ食べる彼女が心の底から羨ましいと思う。