何を隠そう、私は毛深い。コンプレックスというにはあまりにありふれた毛の悩み。
高校生になって友達にプールへ行こうと誘われたとき、真っ先に思い浮かぶのは自分の背中に生えた上等な毛並みだった。

つむじがあるのは、頭だけとは限らない。それは"黒いオーラ"

私の背中に生える毛はうずを巻いていて”つむじ”まである。世間のみなさま、つむじがあるのはなにも頭だけとは限らないのです。

家族に言わせれば、太い毛でうっすらと覆われた背中は、遠目からだと黒いオーラのようにも見えるらしい。

友達に"黒いオーラ"を見られるなんて冗談じゃない!腹黒、改め「背黒」とあだ名がついたらどうしてくれるんだ!

脚や腕なら自分で処理できるが、襟足からおしりまでふさふさに生えた毛はどうしたらいいんだ!

わらにもすがる思いで妹に頼った。「え?背中の毛?」戸惑う妹を浴室に連行する。姉妹なのに、妹の背中はつるんとキレイだから憎い。

後退りする妹に、「ひとおもいにやってくれ」と背を向けた

妹にカミソリを握らせて私は服を脱ぐ。後退りする彼女に「ひとおもいにやってくれ」と背を向けた。しばらく待っても刃が当たる感覚がない。振り向くとカミソリだけが床にぽつんと置かれ妹の姿が見えない。

プールはもう明日に迫ってる。私は全裸のまま、逃げる妹を捕獲するため血眼で家中追いかけまわした。後に妹は言う。「あの日のお姉ちゃんは今でもトラウマ」

泣きべそをかく妹を再び浴室に連れ込み、儀式を再開した。恐る恐る毛を剃る手が震えてる。ちょっぴり涙目のまま肌を傷つけないようそっと手を動かすところに彼女の優しさを感じた。1時間ほどして任務が完了した妹は私より安堵した表情で「もう絶対にやらないから」と断言、そんな殺生な。

案の定というか、翌日清々しい気持ちでプールに挑めた私は味をしめてしまった。
カミソリだと怖いだろうから奮発して除毛剤を3箱買ってきた、とりあえず3回分!それからというもの背中に除毛クリームを塗りたくるのは妹の役目になった。「お姉ちゃん、そろそろじゃない?」というかけ声で"ムダ毛さよなら"儀式を執り行う。なんならそのまま一緒お風呂に入るのも習慣になった。沁みない?痛くない?と合間に挟みながら、それぞれに過ごした1日を語りあう。

妹に背中を預けた日々は数年続いたが、大学受験が終わり、ひとり暮らしが決まった彼女は新生活に胸を躍らせ颯爽と実家を去った。

妹が除毛クリームを塗ってくれた日々が、私の承認欲求を満たした

妹が居なくなって放置された背中の毛は、今がチャンスとばかりにボーボーと生い茂り勢いを取り戻す。

周りの友人はみんな脱毛サロンに通ってるし、ムダ毛とおさらばしたいなら私もそれに倣えばいいのだ。実際1度だけクリニックで施術してもらったことがあるが、普通なのか知らないけど全身にレーザーを当てるのに4時間もかかり、終わる頃にはスタッフのお姉さんも私もぐったり。

”俎上の鯉”よろしく裸体に紙パンツ1枚で横たわる姿のなんと滑稽なこと。これあと何回通えばいいの?って思うと、ムダ毛処理がエチケットのご時世、女子に求められる努力は異常にさえ思う。

私だってもちろん毛がない方が嬉しいけど、前にあるように脱毛サロンは自分に向いてない。きっとそこまでして、この憎い毛を消してやろうって思えないのだ。以前だったら人の目が気になった背中も、ほどほどで良いと思うようになってしまった。妹が笑いながら除毛クリームを塗ってくれていた日々が、毛深き私の承認欲求を満たしてしまったようである。

現在の私は調理用のスパチュラを買ってきて1人で四苦八苦しながら除毛クリームを塗っている。どうしてもまばらになってしまうから、妹がいてくれたら…と思ってしまうんだけど、なんだかそれさえも愉快である。消しきれないムダ毛が可愛く見える日がくるなんて人生分からないもんだ。