昔、子どもだった頃。親戚の姉妹が、よく「私達のどっちが好きなの?」と私に選択を迫ってきた。答えに困りつつも、そう問いかけてくる2人の澄んだ瞳が可愛いなぁと感じたものだ。

なぜそんなことを急に言い出したのかと言うと、我が家の息子達も最近同様のことを母である私に対して言うようになったからだ。

彼らの愛は、どストレート。どちらが手を繋ぐのか(右か左かでも争う)、どちらが隣で寝るのか、つまりはどちらが愛されているのか。常に競いあっている。男の子兄弟の可愛さを堪能できるのは幼稚園児の今がピークだと思って、いつか訪れる反抗期に備え、子ども達から日々注がれる愛情を、チャージする我々両親。

そして、こうも思うのだ。私の息子達は、自分と兄弟を天秤にかけて、好きな方を相手に選ばせるというトンデモ行為を躊躇なく行う。しかしその原動力はポジティブなエネルギーなんだなぁ、と。その言葉の裏には計算がない。ただ答えが知りたいだけ。彼らは自分への愛が少しでも欠けることを許さず、完璧を求めている。だからこそ、時折私に確認するのだ。

しかし、この手の愛情表現は期間限定。幼稚園や小学校で「察し」や「思いやり」といった「美徳」と呼ばれるものを学んで大人の階段を上ってしまえば、瞬く間に使えなくなってしまうだろう。

本当は私だって、大切な人たちに聞いてみたい。「私のこと、好き?」

本当は私だって、「私のこと、好き?」と誰かに聞きたい気持ちが、全く無いわけではない。家族や友人など、大切な人達から、自分はどう思われているのか。自分は誰かの1番になれているのか。……実は結構、気になっている。

私には高校で出会った大好きな女友達がいる。お互い離れた場所に住んでいるけれど、時々、小さな話題でも連絡を取りたくなる相手。

彼女は仕事に一生懸命向き合い、オタ活にも精を出し、婚活も程々にこなしながら都会で1人暮らしをしている。既に結婚して地元で家庭に入った私は彼女の人生を少し羨ましいと感じつつ、勝手にいつも応援している。

多分、というかどう考えても、彼女にとって私は1番の親友ではない。会う頻度、連絡の頻度や、共通の話題の質や量を考えても。それでも、私が彼女の事を特別だと感じている程に、同じ質量で私の事を思っていてくれたら良いのに、と願ってしまう。

現実の私は、自分と別の何かを比べられるほどの自信なんてない

だったら、聞けば良いのだ。「私のこと、好き?大事に思ってくれてる?」って。……それは無理。年に1回会えるか会えないかの相手から、そんなこと聞かれたら彼女はドン引きするかもしれない。誰だよ、メンヘラとかいう言葉を流行らせた人は……。そんな質問を友達にしたら、まさしくメンヘラ認定されてしまうのかな。いや、彼女はしないかもしれないけど、私が私を、そう思いたくない……。

もしくはもう少し軽めに、「重い」とか「ウザい」とか思われてしまう気もする。とはいえ私の気持ちは恐らく駄々漏れなので、「重い」程度なら既に思われているかもしれない。

とにかく、私は「私のこと、好き?」というシンプルな質問ができずに、勝手にモヤモヤしたり、ガッカリしたりして、その件については保留にしたままに生きている。28歳の私は、自分と別の何かを天秤にかけて選択を迫れる程に、自分に自信がない。その質問をしてどう思われるかも、怖い。

満たされないオンリーワンより、誰かの1番になってみたかった

友人関係だけではなく、恋愛関係に関しても同様だ。
「私と仕事、どっちが大切なの?」「私とあの子、どっちが大切なの?」という言葉は、定型文であるかの様で、あまりリアリティを感じられない。どれだけ自己肯定感が高くても、今の時代、そんな台詞を派手にブチかませる一般人は、中々居ないだろう。率直に申し上げて、古くさい。

昔は本当にそんなトレンディドラマの様なやり取りが、リアルの人間関係の中にもあったのかもしれないけれど、私はお耳にかかったことがない。昨今、ドラマの中でも、そんな強気で勝ち気な台詞は中々聞こえてこない。むしろ、「私より◯◯の方が大切なんでしょ!?」「私なんかは釣り合わないから……」といったような、後ろ向きな発言の方が目立つ。

「順位よりも個性」、「それぞれの特技を伸ばしていきましょう」。
そんな価値観が社会や家庭で根付いてから、かなり経ったと思う。それで救われたり、才能を開花させたりした人はもちろんいるのだけれど……。

それぞれの道を、それぞれの歩幅で行く。その先には、永遠に満たされないONLY.1しかない気がする。

「私の全てはあなたにこの上なく愛されている。そうでしょ?」と澄んだ瞳で相手に問えるだけの資質は、今の時代からはすでに淘汰されつつあるのかもしれない。レースの中で数多の強豪を押し退けて、ゴールテープをぶっちぎりで駆け抜ける快感は、もう令和の大人社会には現存しないのか。

取り柄の無い私にとって、そんな事を夢見るのは無謀なのかもしれないけれど、一度で良いから味わってみたかったなぁ、誰かに丸ごと包まれて、認められるNo.1を。

聞く度胸はないけれど。どうか私のことが1番だって言って

私は家族や大好きなあの友人に「私のことが1番好きなんだよね?」と聞く度胸はない。なので、令和の小心者から、私の大切な人たちにお願いする。

私に「全部まるごと愛してる」「一緒にいる時間が最高に楽しい」って、私の目を見て言ってくれないかな。