私は姉と同じような人を見たことがない。
姉が小学生の時、お洒落だからと家族に内緒で髪の毛を金髪に染めた。すぐにばれて、お母さんにしこたま怒られていた。
中学生の時は「面白そうでどうしてもやりたくて我慢できなかった」と友達を後ろに乗せて放課後の校舎を自転車で走り回った。生活指導の先生が家にまで来る事態になり、家族みんなでひたすら謝った。
極め付けは高校生の時。学校のある時間に間違ってアルバイトを入れてしまい、バイト先へ行くために高い校門をよじ登って学校から抜け出した。気付いた先生が自宅に電話をかけ、電話に出た私を姉と間違えた。そして、なぜか私が1時間電話越しで怒られることになった。その先生の声が怖くて、姉じゃないとなかなか言いせなかったのだ。
自他ともに認める破天荒な姉 でも成績は常にトップ
ここに書いたのは本当にごく一部で、
姉を知る友達にも「さゆのお姉ちゃん、またなんかやったの」と言われるぐらいにはやらかしていた。
その後も家族の名前のタトゥーを腕に入れたり、頻繁に赤や青と奇抜な髪色や髪型にしたりとその他もろもろ何かしらしでかすのが私の二つ上の姉だ。
家族が思い思いに怒るなかでその度に、いつも「パッパラパーでごめんな」と姉はよく言った。あまりにも真面目な顔でパッパラパーと自分で言うもんだから、面白く感じて憎めなかった。そして、なんだかんだ私達家族は姉に甘い。
だからといって姉は頭がよくない方ではなく、むしろ良い方で。
高校は進学校を特待生で入学し、成績は常にトップだった。
勝手に期待して、勝手に悪口を言わないで 妹だから腹が立った
そんな姉はある日突然、高校を中退した。
「やりたいことがないのに学校行く意味がわからんくて」
普段、陽気で楽しいことばかり話す姉の今までで一番見せたことのない深刻な表情。
どれだけ聞いても、それしか言わず、私達でさえ納得できなかった。
今思えば、姉はいわゆる器用貧乏だったのかもしれない。
長く続いたものが少なく、習い事や部活で賞を取ったとかいつも周りに期待されている時になにかと理由をつけて辞めるところがあった。
「不真面目」「悪い友達とつるんでいるから」「育て方が悪かったから」
姉を知っている人にはあることないこと色々なことを言われ、地元で話題の格好の餌食になった。正直なところ、周りに言われるたびに自分のコンプレックスのように感じて妹ながら「出来るくせに、なぜ要領よく卒業しなかったのか」と恨めしく思う時もあった。それと同じぐらい本人のいないところで悪口を言う周囲に腹が立ち、何度かそれを口に出してクラスメートと喧嘩をしてしまったこともあった。
パッパラパーに生きる姉は大丈夫 私たち家族はそう信じている
高校中退後、姉はよく働いた。働きながらやりたいことを探していると話すようになり、7年後、アパレル会社のデザイナーになった。
「今思ったら、高校卒業したらよかったよな。迷惑かけて申し訳ないけど、後悔してないわ」
前よりも当時のことを思い出す時は快活に笑って話すことが増えたと思う。
「私、人に迷惑だけはかけんように頑張ってパッパラパーに生きるわ」
最後には必ずその言葉で締めくくる。
その度にパッパラパーって何よと返すのがいつの間にか姉と私のお決まりのやりとりになった。
私は姉とは同じことはできない。
今でもたまに私生活で破天荒さを発揮し、時折まだ「姉は大丈夫か」と昔馴染みの人が聞いてくることがある。
ここまでくると、姉が大多数の人と同じことを望んだら、もうそれはきっと姉じゃないんだろう。
「大丈夫やと思う」
根拠はないが、姉なら心配ないといつも話すようにしている。
誰が何を言ったとしても、私達家族は姉を信じている。それに、私にとって芯の強い自慢の姉だから。
恥ずかしいから、本人には言わないが。