すごく好きな人がいた。過去形になるまでに、すごく時間がかかったし、悩んだ。私の人生はまだ20年しか経っていないけれど、少なくともこの20年生きてきた中で一番好きだった。

話しながら歩き続けた。筋肉痛でさえ幸せだった

大学一年の夏、彼とはサークルで出会った。大勢の友達とワイワイ群がる男子とは違い、ひとりで「佇んでいる」という言葉がよく似合う、少しミステリアスで不思議な空気感を持った人だった。たまたま地元が同じという共通の話題からみるみる仲良くなり、よく2人で遊ぶようになった。
彼といる時間で一番好きだったのは、歩いているときだ。くだらない話もすれば、思想的な話や宇宙の話もしてくれた。彼と話していると、私のなかの世界が広がるように感じた。電車に乗ればいいものを、10キロ近く夜の街を歩いてひたすら話しながら帰ったこともある。私はその時間がなにより楽しくて、翌日の筋肉痛さえ幸せだった。

彼のことが好きだという気持ちが大きくなり、とうとう私は、「私のことどう思ってる?」と彼に聞いてみた。すると彼は、「仲のいい友達だと思ってるよ」と答えた。そして、「自分にはもう好きな人ができないと思う」と付け加えた。
過去の恋愛で何かあったのだろうと思い、私はそれ以上何も話すことができなくなり、告白せずして勝手に振られてしまったと、この気持ちに蓋をした。

きっと私を好きになってはくれない人を思いながら

それから、もう会わないでおこうと私は心の中で決めた。彼のことを好きじゃなくなる方法はそれしかないと思ったからだ。しかし、会話の流れでふと彼が会おうと言えば、私の足は動いてしまう。
飄々としていて、まったく変わらない彼の振る舞いに私は少し腹が立ったりもした。揺れ動きそうな感情の中で、また本気で好きになったらダメだと自分に言い聞かせていた。
そう思っている時点で、私はまだ彼のことを好きなんだろうなと薄々気づきながらも、この気持ちに気づかないふりをする。この人はきっと私を好きになることはないだろうと、なんとなく感じていたからだ。

そんな時、別の男性から何度かデートに誘われ、その人からの気持ちを感じるようになった。私の心は、まだ完全に切り替わっていなかったけれど、その人の真っ直ぐな思いに答えたいという気持ちが大きくなっていった。そして告白を受け、最近その人と付き合うことになった。
私の出した答えは間違ってなかったと思うし、何より今とても幸せなのがその答えだ。

切れなかった長い髪とそのままの髪色。私は踏み出したい

あの帰り道でふと、私は彼に「次に美容院行く時はブリーチして明るい髪にしようかな」と言ってみたことがある。大学生になってもほぼ地毛と同じ色でロングヘアーだった私は、大学の友達みたいな明るい髪色に挑戦してみたいと前々から思っていたのだ。
すると彼は「そのくらいの髪色の方が似合ってるよ」と私に言った。
また、ここ数年間ずっとロングヘアーだった私は、少し飽きてきているけれど、長い髪の女性が好きだと彼がふと言った時から髪を切れなくなっていた。

このエッセイを書くことで、あの彼への思いの完全昇華と新しい自分への第一歩にしたい。2021年、私は長年のロングヘアーを切るし、ブリーチだってしてやる。