1日の中で一番好きな瞬間は、夫との“ひしっ”の時間だ。
私たちが結婚した当初に流行っていた、動くポケモンのラインスタンプの1つに「ひしっ」という効果音と共に抱き合うキャラクターがいたことから、私たちはお互いが抱き合いたいときに「ひしっ」と言うようになった。

1日の終わりに最高の時間に包まれて、幸せな気持ちで眠りに落ちる

“ひしっ”の時間は毎日夜にベッドに入ってから訪れる。
あまのじゃくな私たちは狭いセミダブルベッドに入ったときにはあなたの事なんて別に興味ないからと言わんばかりに天井を眺めながら眠ろうとするのだけど、期待でいっぱいになりドキドキして眠れない。
やがて、夫のことが気になって首を動かすと夫も私の方を見ている。
目があったとき暗闇で夫が少し微笑んでいる。些細なことだけど、私は愛されているんだなと感じて心が温かくなる。 

目があうだけでは足りなくなって「ひしっ」と私は小さく声を出してしまう。
夫が優しい眼差しをこちらにむけ、身体ごと私の方に向けてくれる。
それと一緒に伸ばされた左腕の上をコロコロと転がって夫の胸にゆっくりと飛び込む。
私は夫の広い胸板に鼻を押し付けて深く深呼吸すると、もふもふした冬用のパジャマに染み込んだ柔軟剤の香りと、夫の匂いが混ざった空気が身体の中に入ってきて、癒しと安心した気持ちでいっぱいになる。
1日の終わりに1日のうちで最高の時間に包まれて、幸せな気持ちで眠りに落ちるときにこの人と結婚できてよかったと毎日思う。

普段なかなか言えないことを伝え合う。欠かせないコミュニケーション

“ひしっ”の時間は私たち夫婦のコミュニケーションとして欠かせないものとなった。
私が夫の腕の中にいる間、日中は小っ恥ずかしくて言えないようなことも言い合える。
「大好き」「結婚してよかった」「美味しいご飯をありがとう」「お仕事頑張ってくれてありがとう」
お互いに普段思っていてもなかなか言えないことを伝え合う。
最近私の妊娠が分かり、つわりであまり家事ができなくて落ち込んでいるときにも「お腹の中で大切に元気な子を育ててくれてありがとう」なんて言ってくれた。罪悪感でいっぱいだった私を一言で救ってくれた。
こんな感じで暗闇のなか不意に思いもしないようなことを夫が言い出すこともあるので、急に涙が出てきてしまうこともある。
私はバレない様に静かに涙の雫を垂らすのだけど、気づいているのかたまたまなのか、さらに強く抱きしめてくれる。
もふもふのパジャマは涙を吸わないので、私の顔に戻ってきてびしょびしょの顔で眠りに落ちるのもまた幸せだと思う。

いつも「おやすみ」と返したいのに、声が出せずゆっくりと夢の中へ

私が眠ったあと、ゆっくりと左腕を抜いてから頭を撫でて、軽く唇にキスをして
「おやすみ」と言ってくれることを知っている。
いつも「おやすみ」と返したいのに、眠り始めた私は声が出せずゆっくりと夢の中へ行ってしまう。
まだまだ早いけれど、人生の終わりもこんな風に迎えたいと思う。
大好きな夫の胸の中で一生分の感謝を伝えて、
頭を撫でて「おやすみ」と言ってみる。
返せない「おやすみ」はどちらに来るのかわからないけど、私たちの幸せが凝縮されたまま終われたらいいな、なんて思う。