早く起きろと私が彼に小言を言いながら、2020年最後の日曜日に大掃除が始まった。
彼とは同棲してもう1年以上経つ。
同棲を始めたのは交際して4カ月目のことだった。我ながらすごいスピードで事が進んでいるな、とは思っていた。でもじっくり見極める期間とかは必要なかった。添い遂げるなら、彼だった。
交際当初、私は24歳、彼は23歳。初めての年下の彼氏だった。
今までの人生、あまり男運がいいとは言えない方だった。最初に付き合った彼氏は、思春期ど真ん中だったのもあるけれど、中学生にしては束縛が激しかった。高校の時の彼氏とは大学入学を機に遠距離になっちゃったし、大学の時の彼氏も住む世界の違う人で苦労した。
当の私は、他人からの評価を軸にしないと生きられない、いわゆる自己肯定感の低いタイプ。彼氏が唯一言葉にして「好き」と言ってくれる存在だから、依存して、思い通りにならなくて病んで、みたいな、とにかくメンヘラだった。
歳を重ねるにつれ、それが自分にとっては非常に心身ともにつらいことだと気づいて、糖質制限するみたいに意識的に改善していったものだった。
「絶滅危惧種」と呼んでしまうくらいまっすぐな彼
そのときは2年ぶりにできた彼氏に舞い上がっていた。し、結婚に焦っていた。だけど相手は年下、変なプレッシャーもかけたくなかった。
結局、私は付き合ってすぐに正直に打ち明けた。
「私は結婚願望が強いので、もしかしたら知らないうちにプレッシャーをかけてしまうかもしれないから、あなたはどう思っているのか聞かせてほしいの。」
彼は言った。
「俺は毎回付き合う人とは結婚を考えているよ。だから、あなたも例外じゃないよ。」
私は驚いた。23歳なんてまだ遊びたい時期だろうに。実際、彼と付き合う前まで遊んでいた男性たちは、30歳目前にして伴侶がいるのに遊んでいたような人たちだ。そんな人しか周りにいなかった。世の男性はみんなそうなんだと錯覚するほどだったのに。
この日から私は彼のことを絶滅危惧種と呼んでいる。
その後すぐに私が一人で住んでいた家で半同棲生活が始まった。この半同棲生活中、一切ストレスがなかったことは同棲の決め手ともなった。
後ろめたい過去の恋愛話を全部知っても彼は私を信じてくれた
初めての泊まりのデートの時だった。道中、お互い言いたいこと、言ってないことを言ってみようという話になった。割と付き合ってすぐの頃からお互いの過去の話も全部知っていたような間柄ではあったけど、私にはどうしても彼に引け目を感じる部分があった。
それは彼氏がいなかった空白の2年間、先ほども少し話したが、あまりよくない恋愛をしていた。すでにパートナーがいる男性のことが好きだったり、パートナーがいるってわかっているのに関係を持ったり。人生経験としてはありだったかな、と思う時もある。どれもトラブルにならずに関係が終息しているのもあるからだ。
でも、久々にできた彼氏。いくらお互いの過去のこと全部知っていたとしても、前科がある女がそう簡単に信じてもらえないのなんて容易に想像できた。
「私、最近まで遊んでいたでしょ。だから、あなたに『あいつまた浮気するんじゃないか』とか疑われても仕方ないとは思っている。そのへん、どう思っているの?」
運転席の彼は、まっすぐ前を向いて答えた。
「俺は付き合ってしまったら、相手のこと100%信じてしまうから。過去のことは関係ないよ。」
「そっか…すごいね。」
「それに、そのときは、さみしさを埋めるには、そうするしかなかったんでしょ?」
その言葉を聞いて、思わず視界が潤んだ。
彼のこと、肉眼で確認できる愛だと思った。地上で唯一出会える神様だと思った。
あぁ、私はもうこの人と一生一緒にいよう。
私を救ってくれたこの人を、裏切るような生き方はしない。
小言を言ってしまう時も、自信をなくしてしまう日も
あれから1年以上が経つ。たった1年の間に色々あった。私が仕事から泣いて帰ってきた日もあるし、彼が仕事に行けなくなった日もあった。早朝4時から喧嘩をかました日も、家事をしてくれないと文句を言った日も。
3月に大学病院の看護師を辞めるまでは本当に私もつらかった。だけど、同棲を始めてから”帰ったら好きな人が家にいる”という事実が、私に勇気をくれていた。
それでも時々、自信をなくしてしまう日もある。布団の中で、こんな私でごめんねって言うと「俺はあなたが好きだよ」って抱きしめてくれる。彼は無条件で私という存在を愛してくれている。