私の彼氏は在日中国人だ。私が通う大学に留学してきた彼に一目惚れをして、そこから有難いことに2年近くお付き合いをしている。来日3年目の今年は新社会人として働き始めたところだ。

何語であってもほとんど不自由なく、楽しそうに暮らしている

そんな彼は、日本語、英語、中国語を話せるトライリンガル。それも、ちょっと話せるとかいうレベルではなく、母国語である中国語の運用能力を100とするなら、英語が97、日本語が95くらい、という正真正銘のトライリンガルである。彼の言語力の凄さはいくらでも詳しく語れるが、簡単に言えば、彼はどの言語を介してでも、友達と遊んだり、映画やテレビ番組を観賞したりすることができ、何語であってもほとんど不自由なく、楽しそうに暮らしているという感じだ。

一方、私の英語はなんとか会話できる程度、中国語は自己紹介できる程度の初心者レベルなので、彼と私のやりとりは主に日本語ではあるが、時折、英語や中国語の練習を兼ねて日本語以外で話すことがある。そういうとき、私はちょっとどきどきする。だって彼がまるで別人のように見えるから。よく、「違う言語を話すときは違う人格になる」というが、3か国語をのびのび使える彼も例外ではなく、日本語、英語、中国語を話す彼は、どれもみんな違う男のよう。

主語の「わたし」が好き。日本語の彼は、やさしくちょっとシャイな男

毎日会う日本語の彼は、やさしくてちょっとシャイな男。主語が「わたし」なところが、「俺」よりも謙虚で、「僕」よりも大人びていて好き。声はすこし高めで、やわらかくて、口調はちょっと控えめだから、実際は私より5歳年上の27歳だけど、同い年の好青年と話しているみたい。時折ある、ちょっとした言い間違い、たとえば、「かわいいから好き」を「かわいいだから好き」っていうところとか、すごく愛おしくて、正直なところ直してほしくない。

週一くらいでデートする英語の彼は、セクシーで自信に満ちた男。声が日本語の彼よりずっと低くて、艶っぽい。そんな声で愛の言葉を恥ずかしげもなく囁いてくるから、私は彼のkitten(子猫)にされちゃった気分。小洒落たbarで、お酒と言葉を交わして、ちょっと酔ったところを、甘い夜に誘われて……日本語の彼のことを今夜だけ忘れさせて、なんて。

滅多に会えない中国語の彼は、強くて凛々しい男。早口でありながらはっきりした発声や、「是(shi)」のように、シュッと鋭い息遣いが男らしくてかっこいい。中国語を教えてくれる時も決して私を甘やかさない。間違っていることはきちんと指摘するし、妥協はしない。あんまり笑わない彼だけど、私が冗談っぽく「アイニー(愛しているよ)」って言うと、「ウォーイエアイニー(僕もあなたを愛している)」と照れくさそうに返してくれる。

どの彼も、私を真っ直ぐ愛してくれる。言語を超え、ぎゅっとひとつに

私はこんな3か国語の彼と恋をしている。どの彼も愛おしく、大好きな彼だ。そしてどの彼も、私のことを真っ直ぐに愛してくれる。言語は違えど、愛をきちんと言葉にしてくれて、そのやさしい言葉と身体で、ぎゅっと私を抱きしめてくれる。そして、3か国語のそれぞれの彼との愛は、言語を超え、たったひとりの最愛の彼への愛として、ぎゅっとひとつになる。私たちならではの、こんな愛の育て方が、気に入っている。

ある日、日本語の彼が、ちょっとはずかしそうな顔で呟いた。「最近日本語のわたしとばかり話しているから、他の彼らがやきもちしちゃっているかも」

「そうだね」と笑いながら、私は心を決める。英語も中国語ももっともっとがんばろう。英語の彼とも、中国語の彼とも、もっともっと愛し合えるように。