恋には障害が付き物だと言うが、私の場合の障害は遠距離恋愛であった。遠距離は心の距離だと思っていたし、会いたいときに会えない関係は耐え難く、苦しいと思っていた。だから何としてでも避けたかったのだが、抗うことはできなかった。
距離には負けない。月に一度、電車に揺られてベタ惚れの彼のもとへ
私たちは出会ってから付き合うまでの日数がかなり短かった。そしてお付き合いを始めてすぐに彼に片道3時間の地方への異動が決まった。私は恋人とは頻繁に会いたいタイプなので、遠距離ができる自信が全くなかったのだが、ひとまずやってみることにした。遠距離を理由に別れるのは嫌だった。距離には負けたくなかったのだ。そして何よりもう既に彼にベタ惚れだったのだ。そこから月に一度電車に揺られて彼に会いに行く生活が始まった。
彼は多忙な為、普段あまり連絡は返ってこない。だから会えるこの日を楽しみに何とか気持ちを保ちつつ仕事やもろもろを頑張った。まだ付き合いたてでラブラブなお熱の時期だったので彼のことを考えたら何でもできた。しかし、本来はとても重たく自他共に認めるメンヘラな私は、彼の休日にインスタのストーリーは更新されるのにLINEの返事が全然ないことが気になったり、世の中の情勢でいつ外出が禁止になるのか、といった状況で不安が一気に加速してしまった。そしてせっかく会えた月に一度のデートの日に大喧嘩に発展してしまう。
泣きそうになっていたら、彼はバッグから箱を取り出して私に渡した
一般的に世の殿方に重たい言葉を投げるのは御法度と言うが、私はそのタブーを犯してしまった。どうして連絡くれないの、誰と何をしていたの、寂しい、と。不満をぶちまけたら彼はうつむき黙り込んでしまった。まさかフラれる…?と今にも泣きそうになっていたら、彼はバッグから何やら箱を取り出して私に渡した。
開けてみるとハワイアンジュエリーのリングが仲良く2つ並んでいた。不意を突かれて言葉が出なかった。以前、私がお揃いのものが欲しいと言ったことを覚えていてくれたようで、とにかく胸が熱くなった。彼は寂しい思いをさせてごめん、と呟き私にリングを嵌めてくれた。付き合って日が浅いので私の指のサイズを知らなかったようだ。薬指にはブカブカでするんと抜け落ちてしまう。仕方ないので中指に付けることにしたけれど、それでも私は嬉しかった。
それからは外出の時はいつでも身につけた。通勤の時も、お出かけする時も、近所のコンビニへ行く時だって忘れなかった。もうこの指輪がないと落ち着かないのだ。私にとっては御守りであり、なくてはならないものだ。指輪も彼の存在も。普段はガーリーテイストな服装を好む私には指輪だけが浮いているようで友人達から総批判を喰らった。それはもちろん自覚もしており、指輪だけ浮いているなぁと思いつつ、もはやそれすら愛おしい。
同じ気持ちになれたのは奇跡に近い。ただの重たい女を卒業しよう
私は疑い深く、人間を余り信用しないため、滅多に人を好きになれないし、警戒心を解くまでにものすごく時間を要する。それなのに好きだと思える人と出逢えたこと、その人と同じ気持ちになれたことは最も奇跡に近く素晴らしい。せっかく生まれた愛なのだから、これからも大切に大切に育んでいきたい。遠距離恋愛は簡単には会えないからこそ、すれ違うことも多く、いつも不安はついて回るが、裏を返せば会えない間にいくらでも自分をアップデートすることができるということでもある。
次に会うときには可愛くなったねと言われたいし、内面も輝いてる方が素敵じゃないか。私も頑張る彼に影響されてただの重たい女を卒業しようと思い、こうしてエッセイを書くことを始めた。遠くからいつも支えてくれる彼に感謝と想いを馳せながら、今日もパソコンのキーを叩く私の指にはキラリとサイズの合わないハワイアンジュエリーが光っている。