初めて男の子から「愛してる」と言われた。

私達はその時夢中でキスをしていた真っ最中だったのだけれど、彼が熱っぽい目をしてそうささやいたとき、私の中のパッションはしゅるしゅるとしぼんでどこかへ消えてしまった。

愛っていうのは、その人の存在そのものを好きでいるってことだと思う

翌日、私はそのことについて友人に話した。

「私も彼もまだ23なのよ。愛の何が分かるって言うのよ」
そう言う私に彼女は
「その場の雰囲気ってあるじゃない。盛り上がってたんなら良いじゃないの」
私はすぐさま切り返して
「愛なんて、付き合って1ヶ月の相手に間違っても口にして良い言葉じゃないわよ」と言った。

「それだけ好きってことじゃない。ねえ、あんたまた深く考えすぎてるよ。じゃあ逆に聞くけど、愛って何なの?」

「そんなの私にもよく分からないけど……。でも愛っていうのはね、その人の存在そのものを好きでいるってことだと思うのよ。その人が持つ特徴ではなくて」

「ごめん……ちょっと分かんない」

「だからね、例えば私がお化粧もお洒落もしないデブな不細工で、性格も卑屈で口を開けば人の悪口や文句ばっかり、野菜嫌いで料理もしない、汗臭いハゲ女だったとするでしょ。私はそれでも彼に愛して欲しいの。というか、必ずそれでも愛してくれると確信出来る人であってほしいの。それが愛だと思うの」

恋愛してるときですら、世俗的な物差しで評価されるのって嫌

「あんたが恋愛続かない理由が分かったわ。じゃあ聞くけど、あんたはそれほど愛されるために、彼にふさわしい女になる努力をする必要は無いってこと?」

「そうじゃない。そんなものは、愛とは全く別次元の問題だもの。そういう外面的な特徴にこだわって評価される相手は、社会だけで充分」

「ごめん本当に意味が分からない」

「だからさ、私たち受験だの就活だので散々思い知ったじゃない。
この子はこことここの能力に長けてるけど、ここはいまいちだから採用、不採用、みたいな。恋愛してるときですら、そういう世俗的な物差しで評価されるのって嫌じゃない。この子は顔がこのくらいで、性格がこのくらいで、学歴がこのくらいで、身長がこのくらいで、おっぱいがこのくらいで……みたいな。恋愛をする相手には、そういう評価すらして欲しくないの。愛する彼には、そんな風にして私を選んで欲しくないの。私の存在そのものを愛して欲しいから。たとえ私が最低のハゲ女だったとしてもね。だってそれが確信出来たら、私は安心して彼を愛せるじゃない」

相手の気配、におい、オーラ…それらを求めることが、本当の愛

「……でもそんなこといったらさ、相手の個性を見て恋人を選んじゃ駄目ってことになるじゃん。所詮人間なんて外側からしか見られないんだし、お互いの小さな個性を一つずつ知っていって、段々とその人を愛していくものなんじゃない?」

「そんなの個性でも何でも無いわよ。顔だって性格だって、あと何百年か経てば遺伝子操作かなんかで生まれる前に自由に設定できるものなんだから。だけどその人の存在そのものを操作して作り変えることは誰にも出来ないわ。だってそれは、その人の気配であり、においであり、オーラであり、魂だから。相手のそれらを無条件に求めるということが、本当の愛なんじゃない」