さようなら、私の愛しい人。どうか、私を忘れて幸せに生きてね。
私が彼に送った最後の言葉だ。
妹のようなポジションで収まっているつもりだったけれど
二年目の今日、愛していた人に別れを告げた。互いに愛していたかと聞かれると、イエスとは言い難い、そんな関係だった。高校二年生の夏、彼に出会い、日を重ね、彼に惹かれていった。年上で、同じアイドルが好き、家族と仲間想いな素敵な人だった。
と、同時に秘密の多い人だった。そして、高校二年生の冬、失恋した彼の話を聞き、私ならそんな悲しい顔をさせないのにと静かに秘めていたはずの恋心が爆発してしまった。言わないつもりだった。妹のようなポジションで収まっているつもりだった。けれど、正直者の私の口は、好きだと伝えてしまっていた。不覚だ。彼は戸惑い、「考えさせてほしい」と告げ、静かにその場を去った。
あの失態から二週間たった。休み時間、私の携帯が彼の名前を示していた。思わず名前をタップし、彼からのメッセージを読んだ。
『好きになるまで時間がかかるかもしれないけど、必ず君を愛すから、こんな俺でよければ』
承諾された。うれしかった。失恋後に告白などずるい女だと我ながら思っていたのに。
ここで、目を覚ましていれば、こんなに苦しまなかったのに
でも、これが間違いだった。
付き合っても、仕事が忙しい彼にめったに会えず、メッセージや電話だけの日々。それでも愚かな私は、彼への愛を募らせ、夢を見ていた。ここで、目を覚ましていれば、こんなに苦しまなかったのに。とんだバカ者だ。
一か月がたった。この日を境に、彼と私の関係にはひびが入っていった。彼は言った。
「アメリカに行かないと」「手術しないと」「大事な人の子供を引き取った」
どれも、信じがたい内容だった。彼の妹、兄、そして幼馴染、全員に事情を聴いたが、みんな口をそろえて、「待ってあげて」というばかりだった。彼女なのにこの疎外感。そして、愛されているとは思えない態度。全部限界だった。
不穏な空気のまま迎えた二か月記念日。ついに話があると彼から言われた。何を言われるかはわかっていた。だからこそ、私から別れを切り出した。私の最後の抵抗で、最後のわがままとして。静かに私の話を聞き、彼は私の心にとどめを刺した。
目の前が真っ暗に。それでも、頭は冷静で、別れのことばを告げていた
「ごめん。きみのこと愛してなかった」
目の前が真っ暗になった。わかっていたことだった。それでもいざ本人から突き付けられると苦しくて、つらくてたまらなかった。それでも、私の頭は冷静で、別れのことばを告げていた。私の恋はここで静かに散った。
知ってたよ。貴方が別の人を愛し、私を傷つけたくないと苦しんでいたこと。ごめんね、早く離れなくて。許して。私は貴方が、そして私自身が思う以上に貴方を愛していたの。だからこそ、この想いが消える日が、二年後の今日になってしまった。遅くなってごめん。もう大丈夫。だからどうか、あなたは私を忘れて、幸せになってね。
二年もの間、静かに燃えていた恋の火は、今やっと鎮火された。私は、これから先、彼を思い出にして、新しい恋へと足を進めよう。お待たせ、新しい私。さよなら愚かな私。そして、さようなら、わたしの愛しい人。