中二の時のこと。学校でアンケートが配られた。いつもはくっつけている隣の席の机も、離して座る。先生は「アンケートの回答は匿名で処理されるから、正直に答えて」と言う。

私たちはみんな、自分を好きだと言ってはいけなかった

 質問項目の一つに「あなたは自分のことが好きですか?」というものがあった。迷う。ちょっと一部のクラスメイトから嫌がらせされることもあるけど、別にそんなに浮いてるわけでもないし、成績いいし、部活は市民大会で優勝して表彰されたし、好きと回答しても別に変じゃないよね…多分…。
 とりあえずその質問以外を埋めて、最後にえいや!っと「あなたは自分のことが好きですか?」に「まあそう思う」と回答し、急いでアンケートを裏返した。
 教室の一番後ろの席の渡辺くんがアンケートを回収に来る。私は絶対に回答が見られないように裏面を上にして渡した。なのに彼はペラっと裏返し、私の回答を見た。そして「うわ!お前、自分のこと好きなんだ!」とニヤニヤして言った。
 私は急いで「えっ、うそ!間違えたかもっ!」と言ってアンケートを奪い返し、「まあそう思う」につけた丸をゴシゴシ消しゴムで消した。そして「そう思わない」に丸をつけ、渡辺くんに渡した。
 薄々気づいてはいたが、私たちはみんな、自分を好きだと言ってはいけなかった。さもなくば、「ナルシスト」「ジコチュウ」と言われてバカにされるのがオチだった。だからみんなが「自分なんて」を枕詞にしてしゃべっていた。

見かねた親友が言った。「大切にする優先順位はまず自分」

 言霊というのは恐ろしくて、「自分なんて」から始まる言葉ばかりしゃべっていると、本当に「自分なんて…」という気持ちになってくる。中三になると私は「あなたは自分のことが好きですか?」に対して何の躊躇もなく「そう思わない」と答えた。

 そこから数年の時を経て、私は知り合いからSNSでネットストーカーのようなものをされていた。「お前は生きている価値がない」「本当に死んで欲しい」。そんな攻撃的なメッセージが矢継ぎ早に飛んできたと思えば、「きつく言いすぎてごめん。本当に精神的にしんどくて…」としおらしいメッセージが届く。本当に精神的にしんどいのはよく伝わっていた。だから私は、カラオケの途中でも呼ばれたら駆けつけ、授業中でも呼ばれたら駆けつけ、夜中でも呼ばれたら駆けつけた。そんなことをしていたら、私はおかしくなってしまった。いくつもの約束をドタキャンし、授業も出られなくなり、昼夜逆転もするようになった。
 そんなとき、見かねた親友が言った。「ねえ、大切にする優先順位はまず自分、そのあと家族、友達だよ」と。

どんな私であっても好きだ、大切にしたい、という気持ちを育てたい

 そのあと新型コロナウイルスの流行とかで会わなくなったりとか、まあとにかくいろいろあって、知り合いとは縁を切った。今はもう、連絡する手段はない。でも、私が変わらなきゃ、きっとまた他の誰かと、同じようなことが起こるんじゃないかなってずっと思っていた。親友が言うとおり、私は「大切にする優先順位はまず自分」というのができていなかった。だから、苦しんでいる人の要求に従った。それは結局、その人の苦しさを増幅させてしまったんだと思う。もちろん自分も苦しかった。

 私に必要なのは、きっと中学2年のあの時に消した「自分を好きだ」という気持ち…いや、そうじゃない。周りから浮いてないとか、成績がいいとか、部活で活躍してるとか、そんな言い訳をして「好きと回答しても別に変じゃないよね」と言い聞かすような「好き」じゃない。どんな私であっても好きだ、大切にしたい、という気持ち。そんな気持ちを自分の中に育てられたら、自分も、周りの人も、もっと幸せになれる予感がしている。

 だから、2021年は私のセルフラブ元年といたします!