私はインターンシップで東南アジアの国に行ったのね。
「治安が悪いから絶対やめな」って言う親を振り切って行ったから、絶対成長してやる、楽しんでやるってメラメラギラギラしていた。
範疇外のおじさん。社長からのアプローチには全然気づかなかった
そこはよくある人材紹介会社で、営業のお仕事だった。日本人は中年男性5、6人しかいなかったから、皆さんに大変よくしてもらいました。
私のいた支社には月1くらいで社長が来てたんだけど、すっごく怖くて厳しい人だったのね。でも仕事終わりにご飯に行くときはとっても優しくてギャップだなっていう人。
全然タイプじゃないっていうか、大学生の私からすれば中年のおじさんって範疇外だったから、社長からのアプローチには全然気づかなかった。
ある日ビザ更新のためにちょっとした国外旅行に行ったんだけど、流石に女の子一人で国外旅行させられないって言って社長がついてきてくれたのね。
その夜が始まりだったわけです。
範疇外のおじさんだけど、まあ断れないわって思って流れに任せてみたら思いのほかキスが上手で、あ、経験豊富な年上ってアリかも、って思っちゃったのね。
でもやっぱり見た目も体もおじさんなわけで、全然心には響かなかったな。「権力者に愛されるってこんな感じかな」って思ってたりした。
それでも月1くらいで旅行に連れて行ってくれたり、毎回紳士だったり、仕事もできるところとか、歳が近い男のことは違う感じとか。
そんなこんなでだんだんいつの間にか好きになっちゃったのね。今思えば認知的不協和。
そんなこんなでインターンシップが終わったの。
どんどん自信がなくなって。どんどん自分が嫌いになって
私が帰国してからも、月1くらいで日本に来てくれて、一緒に旅行に行った。
この頃くらいから、社長が私に厳しくなったのね。
「旅程は任せるわ」って言っておきながら、「えーここってこんなにしょぼいの?」「なんでこんな宿取ったの?相談しろよ」「ああ、ストレス溜まるわーーー!!」「バカだね」「次は?待機時間?なんで旅程もまともに組めないの?」。
次第に暴言は私に向かうようになって、「なんでそんな格好するかな...もっといい服着たら?」「なんでヒール履かないの?ダメでしょそんなの」「髪型もさあ、もっとこう、うまくやりなよ」「若いって言うかさあ、視野が狭いよね」「会話がつまんない」。
社長からすれば、大学生の私なんて、仕事もできない身だしなみも完璧じゃない、ビジネスマナーも身についてない、何も出来ないペットみたいな感じだろうなってこの頃から思い始めて。
どんどん自信がなくなって。どんどん自分が嫌いになった。
「なんでこんなことが出来ないんだろう」「ああ、また怒られるんだ」「会いたいけど怖い」「好き、会いたい、話したい」「怖い、また怒鳴られるかも」「会いたくない」「私がもっといい女だったら」「私がもっとちゃんと出来たら」「私がもっと期待通りだったら」
どんどん自己否定の思いが強くなって。
コロナ禍で社長が日本に来れなくなった。それでも週の半分くらいはテレビ電話でおしゃべりした。電話がかかってくるのが楽しみで、いつかかってくるかわからない電話を待ちわびてシャワーも浴びれず夜も眠れず。
よく考えればテレビ電話だって私からのコールに出てくれたことはなかったなあ。
社長からの電話を待ちわびすぎて夜寝れなくなっちゃったから、「電話できない日はおやすみって一言ライン入れてくれたら嬉しい」って言ったのね。割と初めてのわがまま。ドッキドキしながら返信を待ったけど、「それは難しいかな」って。
ああ、この人は「おやすみ」の4文字を私に打つ労力が惜しいんだなって。私は一晩でも電話を待っていられるのに、この差は埋められないなって。
社長との思い出は写真を消しても消えない。幸せの日々は私を苦しめる
最初は中年おじさんなんて好きじゃなかったのにって。あなたが先に私に近づいてきたのにって。社長のせいにしないと私の気持ちが整理できなかった。
それからはずっとモヤモヤモヤモヤ。
「社長にとって私って何?どんな存在?」
絶対聞いちゃダメな質問。でもちょっと期待も捨てられない。だってこんなに好きなんだよ?毎月旅行してたんだよ?
ついに抑えきれず、何時間も悩んで作った一文、「わたしってなんですか?」を送信。
すぐに既読&返信。「年の近い彼氏を作った方がいいよ」
文字通りフリーズした私に、社長は気づきもしなかっただろうね。その後しばらくは泣き通し。数日間ベッドから動けなかった。
せめて「わたしってなんですか?」の問いにちゃんと答えて欲しかったな。本当になんでもなかったんだろうなあ。
インターン後も社長の会社でアルバイトしていた私は、その後も社長と連絡を取り続けなければならなかった。まるで何事もなかったかのように振る舞う社長を日々日々憎らしく感じた。
就職も社長の会社の予定だった。すごく悩んだけど卒業間近に内定を辞退した。これ以上社長の近くにいると本当に頭が狂っちゃいそう。
社長とはお別れして、新しい彼もできた。それでも社長は私の中に留まり続ける。もう経験豊富な年上じゃないと、紳士じゃないと満足できないし、一生私は理想の女になれない私を嫌いなままで。社長との思い出は写真を消しても消えないし、幸せだった日々は時々フラッシュバックして私を苦しめる。
本気の恋は呪いと一緒だと思いました。