昨年の10月、人生初の台湾旅行に妹と出かけた。妹と私は、互いに気の置けない、親友のような存在だ。社会人になって自分のお給料で行く初めての旅行で、妹と二人で旅行するのも初めてだった。
そんな楽しみにしていた旅行だったのに、なんと初日に妹が体調を崩してしまった。大学で運動部に所属していて、大会があったり、委員会活動もしていたり、忙しい毎日を過ごしていたので疲れが溜まってしまったのだろう。
到着したのは夕方で、翌日も、妹は朝昼とホテルで休んで体力を温存することにした。3日目にツアーを申し込んでいた十分と九分にはどうしても行きたいとのことだったからだ。
ホテルの部屋にいる時間が長かったことが、妹にとっては楽しかったらしい。私たちの暮らす実家にはベッドがなく、いつも布団で寝ている。妹にとってはホテルのベッドで遅寝をすることが、旅行ならではの贅沢だったそうだ。出かけられなくて残念な気持ちでいると思っていた私は、それを聞いてとてもほっとした。
また、妹はホテル内の食も存分に楽しんでいた。コンビニの鮭おにぎりが日本のものよりも塩気があって美味しかったと、リピートしていた。ホテル内のベーカリーのクロワッサンを私が差し入れると、一人で一袋平らげていた。普通、妹を置いて出かけたら罪悪感が湧いてきそうなものだが、むしろこんな状況でも、残念がるだけでなく、楽しんでしまう妹のことを更に好きになった。
気を使い過ぎる妹のために全力で願いたい
妹の体調が落ち着いたので、無事ツアーに参加することができた。まずはバスで十分に向かう。
ツアーガイドさんによると十分は昔、金が発掘された場所で「十分に幸せになれる場所だから」という由来で、現在の地名になったらしい。十分は願いを書き記したランタンを上げられることで有名な場所だが、いくらランタンを上げても火事が起きないのは、神様が見守っているからだという。おとぎ話のような話を信じられる不思議な魅力のある土地だった。
ランタンは4種類の紙を貼り合わせており、金運や仕事運のように色によって願いを込めることができる。まずは妹が健康運のご利益のある赤い紙に毛筆で字を書いた。
「体調が今日で治りますように」
私と顔を合わせる度に、妹は「ごめんね」と謝って、私を気使ってくれていた。自分では2つしか願いを書けないのに、妹は旅行を大切に想ってくれて、私との旅行のために使ってくれた。
妹は中学時代から、気を使いすぎるところがあった。友人にまで舐められて、3番手4番手のような扱いを受けることもあった。高校の卒業式の写真では、みんなが盛り上がっている中、友人と二人少し後ろで控えめに映っていた。
私が、妹のことを一番大切に考えてあげたい。私は人間関係のご利益のあるピンクの紙にありったけの想いを込めて書いた。
「これから出会う人が妹の良さを理解してくれますように」
このランタンの両端を二人で持ち、空に上げる時に気が付いた。
願いは、大切な人のためにするものだ。
周りで上げている他の人たちから「金持ちになりたい」とか「仕事で楽になりたい」という声が聞こえたけれど、私にはしっくりこなかった。私のことは、自分で叶えていくことができる。でも、大切な人を幸せにするためには、最終的に願いを託すことしかできないのではないだろうか。それならば、私は妹のために全力で願いたいと思った。
大切な人のために願うことが、私にとっての幸せ。そう気が付くことができて、台湾旅行は私の人生にとって輝き続ける通過点になった。
新型コロナウイルスは必ず収束する。今度は元気な妹と台湾に行くことが、今私が一番楽しみにしていることだ。