第一志望の企業からお祈りされ、希望だった地元での就職が叶わなくなった私へ。
自分の中の「普通の就職」が叶わなくなったあなたは今、とても落ち込んで、一ヶ月後、一年後の未来が見えず、途方に暮れていることと思います。そんなあなたを励ましたくて、筆を取りました。28歳の私から22歳のあなたに宛てた、最初で最後の手紙です。

想像とは違う日常だけど、あなたが選んだ選択肢は未来に繋がっている

あなたはこの後、全く希望していなかった全国転勤という働き方をしなければならない企業に就職します。その選択が正しいのかどうか分からないまま、あなたは大学を卒業します。
残念ながら、学生時代を共に過ごした彼とは別れてしまうことになります。でもそこで、学生時代には得られなかった生涯の友と、あなたの地元から遠く離れた場所で生まれた男性と出会います。そしてそれぞれの地元でもない、あなたが予想もしなかった場所で、結婚式を挙げることになります。
これまでも、あなたは自分のやりたいこと、自分のできること、自分にやれることを必死に考えて、その中でベストの選択肢だと思うものを選んできましたね。あなたはそんな生き方を、「いい子ちゃん」でつまらなかったと思っていますね。どうせならもっと冒険すればよかった、と。
でも、何一つ想像とは違ったけれど、この後あなたが選んだ選択肢はあたたかい未来に繋がっています。だからありがとう。あなたの中の「普通」から一歩外れた場所から続く道の先にいる六年後の私は、悲しいことも悔しいことも一つずつ乗り越えて、今、ちゃんとここにいます。

昔描いた未来とは違う普通が今にあり、そして今とは違う普通が未来に

「普通」って何だろうね。
六年後のあなたは結婚して、お給料は下がるけれど、大好きな人と一緒に生きていくために全国転勤を辞めて、少しずつ働き方を変えてきました。
これからどう生きていくか、漠然とした不安を抱えていました。人生で初めて、大切な友との永遠の別れを経験しました。そしてこの一年で、誰も想像し得なかった未知のウイルスによって社会が混乱して、私の心も再びあなたの様に揺れていました。
あなたが「普通から外れた」と感じた、その道の先にいる六年後の私には、振り向いてももうあなたの姿は見えません。不思議なもので、今のあなたは考えもしないだろうけど、この道が、六年後の私にとっての「普通」になりつつあります。六年前、未来の見えなかった私が今ここに存在しているように、私もきっと六年後の私が「普通」だと感じる未来に存在していることでしょう。「普通」を超えていった先に、振り返れば「普通」だったと感じられる道が続いていたように。

この手紙の続きが希望や喜びで溢れ、人生の光になりますように

そして覚えていてほしいのは、一つずつに名前のついた悲しみや苦しみは、石ころのように、ゴロゴロと私の心の中を転がっているけれど、その何十倍も、名もない些細な喜びや希望の粒が私の心を埋めているということ。
忘れなくてもいい。角張った石ころも、転がっているうちに、いつかきっと角が取れて、まるくなっていくはずだから。
今もまだ、28歳の私には、これからどう生きていったらいいのか、人生の中で何を為したいのか、残念ながら見えていません。
でも、あなたがそうであったように、私の次の一歩が想像もしないあたたかな未来に続いていくよう、私もまた、目の前の悲しみや苦しみを一つづつ乗り越えて進んでいくしかないようです。そしてできれば、いつかまたあなたに手紙を書く時に、この手紙の続きが喜びや希望のようなもので溢れているように。
この手紙が、小さくてもいい、あなたの人生の光になりますように。そして、私のこれからの人生の目印になるよう、願いを込めて。
あなたの「普通」とは少し違う、私より。