あなたのために回る洗濯物がこんなにも幸せそうだから。
あなたのために買ってきた食材たちがこんなに嬉しそうだから。
あなたのために誂えた靴がこんなにも誇らしそうだから。
私はあなたと結婚しようと思ったのです。

そうです。私はなんでも擬人化してしまう癖があります。これはなかなかに曲者で、どこへ行っても何を見ても物たちの声が聞こえてきます。

無差別に声を聞き取れてしまう私の癖

時計屋さんに行った時のことです。並ぶ時計たち皆それぞれに訴えかけてきます。
「俺の方が安くて機能的だぞ」
「私がこの価格で迎えられるなんて感謝しなさい」
「ぼくは大切に扱ってもらえるご主人様ならなんだっていいな」
そんなこんなでおしゃべりを続ける時計たちに、私はクラクラしました。私の癖は言わば人の思ってることを無差別に聞き取れてしまう様なもので、情報過多になってしまうのです。

「大丈夫?」夫が語りかけます。
彼は私のちょっと不思議な世界のことを理解してくれて楽しんでくれさえします。
「時計がね、」私は時計たちが訴えていることを夫に伝えました。
「じゃあこの子をお迎えするのが良さそうだね。だって君のこと好きみたいだし。」
夫はそう言うとお店の人に声をかけました。

その後、静かなカフェに入りました。
「ねぇこの子なんて言ってる?」こんなことを聞かれると困ります。
私は喋ってる言葉を聞き取れるのであって、コミュニケーションを取れる訳では無いのですから。
「まだ黙ってるよ。恥ずかしいのかな。」適当なことを言います。
夫も「そっかー。そういう子もいるんだね~」と適当に返します。
そんな緩やかな関係が心地よいです。

捨てるとは埋没と同じ

ある日のことです。
私が大切に大切にしていたマグカップを落として割ってしまいました。
私にとって物を壊すことは人に怪我をさせるのと同じくらい重大なことで、血の気が引いてしまいます。
「あのマグカップを割ってしまった。まだまだ頑張るぞってやる気になっていたのに。ごめんね。ほんとうにごめんね。」ポロポロと涙をこぼす私。
夕日が差すリビングでマグカップと2人きり。泣きながらマグカップを片付けました。
片付いてしまってそれがあまりにも呆気なくてあんなに大事なマグカップだったのに。

私にとってものを捨てるとは埋葬。マグカップは私のために命を全うしてくれました。感謝でいっぱいです。

いかがでしょうか。私のちょっと不思議な毎日は。いちいち物に喋りかけられては、たまったものじゃないので家には最小限のものしかありません。それでも満ち足りてます。だってその物達は私たちのことがほんのり好きなのだから。