「どうしてこの会社で働いているの?」
こんなテンプレートな質問を投げかけられたらどう答えよう?私は胸を張って言える。
「自分のためだ」って。

「このままでいいの…?」そうつぶやいた、社会人3年目の春

働いて3年目を迎えた春、私がこの会社で働く理由はただ単に「社会人」という肩書きが欲しいだけだった事に気が付いた。それは私に限ったことではなく、この会社で働いている人たちのほとんどがそうだ。
「社会人だという肩書きさえもらえれば、どこでも良かったんだよ。」
そんな雰囲気は部署全体の勤務態度にも、そこはかとなく表れている。

淡々と事務作業をこなす。コピーにデータ入力。同じことの繰り返し。やりがいなどいらない。これが私の働き方。この会社での働き方。
だけど、同僚と女子会をすれば「給料少ない、ボーナス少ない、無駄が多い、この会社おかしい」と文句は止まらない。おかしい会社、効率の悪い業務の繰り返し、そこで働く自分。あれ、この構図ってブーメランじゃないの?巡り巡って「自分がおかしい」ということになるんじゃない?
「このままでいいの…?」といつの間にか独り言をつぶやいていた。

些細な心のもやもやは日を追うごと大きくなる。
このまま年を取って本当に後悔しないのか?きっと何年経っても変わらぬ気持ちで「この会社が悪いんだ」とか、「もっと頑張ればよかった」と嘆く、情けない未来予想図が頭に浮んだ。

焦りから転職活動を始めた。
ところが、他の会社と比べると案外この会社も悪くないことに気が付き、転職してしまうのは勿体なく思えた。
それでも「おかしい会社」という気持ちは変わらない。
でも、このままでは「おかしい自分」のまま。じゃあ、どうする?
「…もうここで頑張るしかない。」決心のような妥協のような結論を出した。

働き方を改善しようと努力するも、ガラッと変える力は私にはなかった

それからは改善活動のためにスキルアップしたり、大変な仕事もあえて受けるようにした。職場環境が少しずつ改善されていく事にやりがいを感じるようになっていた。
でも、相変わらず「おかしい会社」という声は聞こえてくる。不安に駆られながらも懸命に仕事に向かったが、「どーせ頑張っても評価してくれないから!」と笑いながら言う先輩の言葉が心をえぐった。

確かに、改善は微々たるもので、ガラッと変える力は私にはない。
それに評価してくれる人もサポートしてくれる人もいなかったように感じた。もしかしてここで努力しても結局「おかしい自分」ということになるんじゃないの?

新しい上司の一言が、私が働く理由を変えた。私は自分の為に働く

もうだめかもしれないと思っていた時、突然上司が変わった。
どんな人かは知らないけど人が変わったところで、微々たるもの。期待するだけムダでしょと高を括っていた。
同じタイミングで最悪な仕事が舞い込んできた。明日締め切りの仕事で、仕様が未確定。
絶体絶命、残業確定だと悟ったとき「困ってるみたいだね」と新上司が声をかけてくれた。私と向き合い問題点を洗い出し、打ち合わせをセッティングして早急に仕様を確定させ、驚くほどスムーズに仕事が終わったのだった。

新しい部長に「配属されて忙しい中サポートしてくださってありがとうございました」とお礼を言った。部長はマスク越しに笑って「一生懸命なのがわかったから」と返してくれた。
「どんな会社でもおかしいことはある。だけどここで頑張っておかないと、後でしっぺ返しをくらう気がするんだよ」自分の手を見ながら彼は言った。
私よりも10歳以上年上の上司。きっと私以上に理不尽やおかしい事を経験しているはずだ。
しかし、こんな前向きな言葉を言ってくれる人がいただろうか。

今思えば上司の言葉は、私に対してではなく、異動したばかりの自分に言い聞かせていたのだと思う。
でも、十分だった。とん、と私の背中を押してくれる温かな言葉が欲しかった。
そして、そんな言葉をかけてくれる人を私は待ってたのかもしれない。
うん、もう私は大丈夫。何も怖くない。
それからは周りの「おかしい」と言う声は聞こえなくなっていた。

私の働く理由は、この日を境にアップグレードした。
「肩書き」ではなく「自分のため」になったのだった。