最初に好きになったのは、わたしのほうだった。

大学生の頃、「大人になれないイタいヤツ」だったわたしは、コミュニティでもよく浮いていた。無駄にプライドが高く、自分を何か特別な存在だと勘違い。そのくせ、他人との距離感をとるのが苦手で、場の空気なんてまったく読めない。
「それは違うんじゃない?」
皆が無難な結論を出そうとする中、どうしても納得感が得られず、口に出さずにはいられなかった。
同調意識が強く、ふつうの中でのちょっとしたユニークさが至高とされる価値観の中で、小心者のくせに小さな衝突を頻繁に起こしていた。

尊敬から恋心へ わたしの欠点を「まっすぐ」だと言ってくれた彼

彼は、そんなわたしに唯一フラットな態度で接してくれた。場を取り仕切るリーダータイプではなかったが、衝突が起きるたび、さりげなくフォローにまわる。視野の狭いわたしにも、社会に出てから求められるのは、彼のような存在であることはなんとなく理解できた。同時に、自分に決定的に欠けている能力をもつ彼がとてもまぶしく思えた。

最初に付き合おうと言ったのも、わたしのほうだった。

嫌われ者の「イタいヤツ」の恋なんて、実るわけがないと思っていた。その告白もなんとも身勝手なもので、後日後悔したくないという自分本位な想いによるものだった。当時のわたしが相手の気持ちなんて推し量れるはずがない。
しかし彼は、そんなわたしのことを受け入れてくれた。彼はわたしの欠点を「まっすぐさ」という言葉で、長所に変えてくれた。空気を読まずに強い意志を主張しつづけることは悪いことでないと言ってくれた。

衝突だけが主張じゃない 彼との出会いがわたしを変えてくれた

彼が受け入れてくれたのは嬉しかったが、性格に名前を付けられたことで、かえって欠点が浮き彫りになった感覚だった。
わたし自身、このままで良いと思っていたわけではない。友人との当たり障りのない会話はできても、何か答えを出すための議論になると、相手の気持ちを推し量る姿勢が欠けているばかりに、いつも衝突が生まれてしまう。
なりたい自分が変わり、これまで漠然と嫌っていた「ふつう」であることを望むようになった。衝突だけが主張ではないと気づいた。
おかげでわたしは変われたように思う。あれから6年経ち、真っ当な社会人のお面をかぶって日々を過ごせている。我ながら、会社での信頼も厚いはずだ。「大人になれないイタいヤツ」だった頃の自分も嫌いではないが、いまの自分はとても好きだ。彼と過ごす中で、皆と無難に会話し、「ふつう」でいることの素晴らしさをたくさん教えてもらった。

出会った頃のように空気を読まずまっすぐにプロポーズする

彼との関係はいまだに続いている。付き合ったり別れたり、これまで2回繰り返したが、「別れたい」「戻りたい」と言うたびに、彼はわたしの主張を尊重してくれた。しかし年齢を重ね、これまで意識的に避けてきた話題がある。「これからどうしたい?」 恋人同士、きっととても重要な会話のはずなのに、これまで1度も自分がどう考えるのか、話をしたことがない。

2021年、わたしの宣言。わたしは、彼にプロポーズをするつもりだ。
長年付き合いを続けていると、自然と意識するテーマであり、それ自体はまったく珍しい話ではないだろう。彼は、大切な恋人でもあり、わたしを変えてくれた恩人でもある。自らきっかけをつくることで、関係性が変わる可能性を思うと、それはとてもこわい。これまで意識的に避けてきた話題でもあり、彼の考えも正直分からないところである。このまま変化を求めず、付き合い続けることもできるだろう。

それでもわたしは、空気を読まず、彼が認めてくれた「まっすぐさ」を彼自身にぶつけてみるつもりだ。「女がプロポーズするなんて」という人には、当時を思い出して「それは違うんじゃない?」と言ってやろう。

空気を読まず、無難な結論を求めず。「大人になってもイタいヤツ」でいたいと思う。