本棚の雑誌のバックナンバーの中から、久々に2020年3月号のワーママ向けファッション誌を手にとってページを開いてみる。
そこに広がるのは、まるでパラレルワールドを覗き見るかの様な誌面。
当たり前だが、ステイホームの「ス」の字もない、Zoom映えするメイク特集もない……。そっか、beforeコロナってこういう事だったんだっけ。それは3月号でありながら、過去どころか完全に、余所の世界の3月の生活に向けたファッションの提案だった。
仕事と私生活の配分、年齢と金銭感覚によりすみ分けられる世の中の妻と母
そして私は思い出す。去年の2月、本屋さんでこの雑誌、この号を手に取って購入しようと思ったのには、明確な動機があったのだったという事を。
その頃の私は、春から主婦を卒業して働くにあたり、オシャレから新生活のスイッチを入れようと思ったのだった。主婦のおしゃれと、ワーママのおしゃれは、ベクトルが異なる。
また、昨今のファッション誌は読み物としても面白い。洋服やコスメの紹介だけではなく、ライフスタイルにまで言及された、幅広い文章が楽しめる。社会問題を扱うエッセイも、良いページに連載されていたりして。だから、勉強したかった。
ワーママ向けファッション誌は各出版社から発行されているが、すみ分けは割と明確にある。
その分類の縦軸は、仕事と私生活にどれくらいのパワー配分をしているか。そして横軸は、年齢と金銭感覚。
そのマトリックス図の中に、それぞれの雑誌はバランス良く分布しており、読者はその中から自分好みの1冊を選んでいく。
これは何も雑誌だけの話ではない。
世の中の働く妻や母は、このマトリックス図の中に、それぞれ分布している。
現状の私のスペックは、仕事値は0、家庭値に100を全振り
結婚すると、「働く」ということが、自分の為だけではなくなる。
パートナーや、居る場合は子どもの為にもなる。そして、仕事と私生活にどれくらいのパワー配分をするかは、人それぞれである。
そしてそこで稼いだお金をどう使うか、ここも年齢や金銭感覚が出る、人それぞれの部分だ。未来を見据えて節制する人もいるし、今の時間に投資する人もいる。
私は去年の2月、本屋に平積みになっている3月号のワーママ向けファッション誌の中から、想定よりもちょっと仕事量多めで、実際よりもちょっと(結構?)年齢と金銭豊かめなママがターゲットであろう雑誌を、背伸びして選んだ(今も好き)。
しかし実際は、この1年の中で様々な事情が重なり、また主婦に逆戻りしている。
だから現状の私のスペックは、仕事値は0、家庭値に100を全振り。そして年齢は29、金銭感覚はシビアながらも自分に甘い時もある。
今の私はワーママ分布図から外れている。それでもやっぱり、ママでありながら働くことに対する憧れは消えない。
私はワーママ向け雑誌を眺めながら、自分が働く姿を想像する。10や20、小さな値であっても、社会に自分の働きをアウトプットし、誌面上で輝いているママ達を見ていると、これがリアリティーショーであるという事を理解しつつも、「羨ましいな」とも感じてしまう。
私が今主婦をしている直接的な原因は妊娠し、「重症妊娠悪阻」を患ったこと、そして元職場の福利厚生が私にはフィットしていなかったという事だ。また、コロナ禍によって状況や価値観が変わった事も、無関係ではない。
妻や母が理想の働き方を叶えられない場合の多くは、私の様に体調不良、もしくは福利厚生が家庭にフィットしていない事、加えて社会情勢などが原因になりがちな気がする。
ワーママ向け雑誌で、世の中のワーママの生活を覗き楽しむ
幼稚園児を2人育てながら妊婦ともなった私にとって、今の世の中で働くことは、まだまだ誌面の向こうにあるものだ。
もちろん私が背伸びして選んだ様な、ワーママ向けファッション誌の中にある通りのキラキラな生活が、働く事だけで手に入るとは思っていない。
なぜなら自分の選択した、もしくは選択せざるを得なかった現実は、誌面ではなく、分布図の中にあるものだからだ。先にも述べた通り、私は現状、仕事値を0、家庭値に100を全振りにするしかなかった、主婦(妊婦)でしかない。
とはいえ、ワーママ向けファッション誌におけるステイホーム中の子どもとの向き合い方に関するエッセイや、Zoom映えするメイク特集などは、2020年の3月号には存在しなかった企画だ。「いつか働きたい」と願う主婦達が、それらのある種ファンタジー的な誌面から得ているモチベーションも、決して小さくはない。
若干現実離れしたそれらの描写にはうんざりする人もいるかもしれないけれど、私のように背伸びして、それらを覗き見る事に楽しさを覚える読者は、確実に一定数、いる。その読者達は、愛する家族が寝静まった後の夜中のリビングで、その誌面をゆっくりとめくっている。
私は私の仕事と私生活のバランスで、ワーママ分布図に点を打つ
私が次に働くのは、何年後になるのだろうか。その頃、私はワーママ分布図のどこに位置しているのだろうか。
私が働きたい理由は、その分布図の中で自分がどの位置にいるのか、自分で点を打つためだ。
選択せざるを得なかったポジションではなく、自分の選択したポジションで、生きていきたい。私は仕事と私生活のバランスを、金銭感覚を、試行錯誤しながらも自分で考えたい。そして旦那と一緒に、家族の在り方を構築していきたい。 私の力で稼いだお金を、家族の生活に、役立てたいのだ。
また私が働き始める頃は、おそらく4、5年後。私はどんなファッションやライフスタイルに惹かれる価値観を持っていて、どんなワーママ向けファッション誌を手に取っているのかな。
20XX年の3月号のワーママ向けファッション誌では、また塗り替えられた新たな生活様式の中で、相変わらずキラキラ過ごす働くママ達に、たくさんのパワーをもらえます様に。