大好きな自分の「苗字」

自分の苗字が大好きだ。春、という漢字が入っている。
愛称は春ちゃんで、素敵な苗字、雰囲気に合ってるねと褒めてもらうことも多かった。見た目も中身も平凡な私にとっては、自分の中で唯一、胸を張って素敵でしょう?と言えるチャームポイントだった。結婚に夢見ながらも、一生この苗字のままがいいなと思っていた。

社会人になり、恋人が出来た。彼は出会った当初から、自分の苗字が嫌いだから、下の名前で呼んでほしいと言った。出来れば改姓したいとも。
それなら結婚する時は私の苗字にしよう!
プロポーズされ、彼の実家にご挨拶に伺い、私の姓で結婚することをお伝え、ご両親承諾、ハッピーエンド。ではなかった。

「誰が墓の世話を見るのか、親子の縁を切るのか」

彼のご家族は猛反対だった。涙を流し、誰が墓の世話を見るのか、親子の縁を切るのか、今までしたいことは自由にさせてきたけど苗字を変えるのは絶対に許さないと。
そうか、結婚は個人の問題だけではなく、家が関わってくるのか。確かに苗字を変えたくないという思いは、家の重みには叶わないだろう。仕方ない、彼の苗字にするか。

あれ、でも私が苗字を変えたらご先祖様のお墓の世話出来ないの?自分の父母と縁を切るの?親不孝なことなの?
多分、誰もYESとは言わないだろう。

苗字は血肉の通った自分の一部

2020年秋頃、選択的夫婦別姓が遂に実現される可能性が出てきたというニュースを聞き、希望を抱いていたが、その冬、家族の一体感がなくなると言う理由で計画案は消されてしまった。
私は彼と法的に家族になれる喜びと、苗字が変わる悲しみを抱きながら結婚届を出した。
新姓を書きながらいつも思う。春ちゃんと呼ばれてきた私は一体どこへ消えてしまうんだろう。30年間付き合ってきた苗字は私の大切なアイデンティティだった。

現在の日本は夫婦同姓が義務付けられている。男女どちらの姓を選んでもいいと言われているが96%は男性の苗字を選んでいる。特別な理由なく女性側の苗字にすることは一大事なのだ。ならば、せめて男性側に改姓を強要はしないから、自分が長く親しんできた苗字のままで生きていくことを許してほしい。

私にとって苗字は血肉の通った自分の一部であったことを、失ってからやっと気づいた。今、その喪失感を埋めることが出来ないでいる。