その夜は、友達と一緒に美味しいご飯とお酒を飲んで、幸せな気持ちでお別れをした。帰り道に男性に声をかけられた、いわゆるナンパというやつだ。私は「結構です。」と言いながら去った。一人でとぼとぼ歩きながら、もう男の人から声をかけられても何とも思わないくらいには大人に近づいてしまったことをひしひしと感じていた。
はじめに、これから書くことは決してナンパ自慢などではないことを理解していただきたい。そして私はナンパを心から嫌う一人であることを。
父親とも先生とも違う年上の男性に、本気で怖がった日々
思い返すと一番はじめに声をかけられたのは中学生のころだった。その時は私は友達と一緒にいて、サラリーマンと思われる人に声をかけられた。正確にはあまり思い出せないけれど、「この後一緒にどうですか?」とかそんなようなよくある言葉だった気がする。
そういった言葉をかけられても平気なお友達の前で、私は本気で怖がっていた。あぁ、もう私はそのような対象として見られる人になってしまったんだと瞬時に悟ったのだ。今まで自分が「女」であったとしても、それを意識しない生活をしすぎていたせいなのかナンパをされた時、誰かにとって自分は「性の対象」になり得るのだと感じた。考えすぎかもしれないが、それくらい自分にとっては極めてショッキングな出来事だった。
高校生になると声をかけられることが多くなった。カラオケ行きませんか?とかこの後一緒に呑みませんか?とか。高校生であった私にとって、普段関わる年上の男性など父親や学校の先生だけだった。だからこそ、ナンパを通して自分と同じ高校生ではない年上の男性から声をかけられるのは、非日常のことで、恐れるべきものだった。
ある日、信号待ちをしているとき声を掛けられた。「もしかしてこれからバイトすか?自分少し時間あるんですけど一緒にどこか行きません?」といった言葉だった。怯える気持ちを隠しながら私はこの後予定があるという嘘をつき、愛想笑いで断った。その言葉を聞いた男性にこう言われた、「私服でその服っすか?(笑)ちょっと個性的すね。」と。完全に自分の服装を馬鹿にされたのだ。確かに着ていた服はスウェットだったけれど。正直に言うと傷ついた。以来、部屋着以外でスウェットを着ることをやめたのは事実だ。
その言葉は私に断られたことによる当てつけだったのかもしれないし、ただイラついたからかもしれない。いちいち深読みはしなかったが、なぜ私は勝手に声をかけられ嫌な気持ちになり、勝手に傷つけられなければならないのだろうとその時は感じた。
ナンパは、時間と自分自身の無駄遣いにしかならなかった
だんだんとナンパはいたって日常の中にありふれていることなんだと気づいた。幼かった頃の私はナンパをされるということは少しでも私に興味を持ってくれたんだろうなんて甘い期待をしていたのだけれど、そうではないことを知る。ナンパをされる女性は決して美しいor可愛いのではない、べつに抱けなくはないラインのいたって平凡な女性ということだ。真意は分からないが、たしかに私だってどタイプのイケメンに会ったら軽々しく話すようなことなんて決してできないだろうと納得したのは事実だった。なんとも悲しい現実だった。
一度、友達といる時に好奇心からナンパについていったことがある。結論を言うと、楽しくはなかった、もしくは、私には向いていなかったのかもしれない。お酒を飲みながらする浅い話はひどく退屈だったし、そもそもああいうノリが苦手な私にとって盛り上げたり楽しくない話に笑ったりする自分はみじめに感じた。自分を安売りしている感は否めなかった。
絶対にラインは交換しないと決めていたので、本当にその日限りの出会いで終わった。ご飯をタダでごちそうしてもらったからといって、その時間は私にとって価値のあるものだったとは思わない。ただ時間と自分自身の無駄遣いをしてしまったなと思い、ナンパについてくのは最初で最後となった。
目標は、気軽に声をかけられないくらいの女性になること
そういったことを経て、私はナンパという女性にとって不快にしかならない行為(少なくとも私にとっては)をする男性を毛嫌いするようになり、完全に無視をすることを決めた。ナンパをされるたび、自分ってこの人にとってはその程度の女性なんだな、となんだか強く感じた。なぜか見下されているような気持ちになり、勝手に自己肯定感が下がったりもした。
よくあるのが、ナンパをされない女性もいるのだからナンパをされただけ恵まれているという言葉だ。私は断固否定する。ナンパされたことは自慢できるようなことではないと思う。ナンパをされたから自分に自信が持てるなどという概念は私にはなかった。むしろ逆だった。
なぜ男性は軽々しくナンパをするのだろう。暇つぶしとしてナンパをする男性は、その一言で女性に不快感を感じさせるということをぜひ認識してもらいたい。強くなかった弱い私にとって、ナンパは本当に怖かったのだ。
数々のナンパは、異性が一目ぼれをし、声をかけるといった少女漫画のような夢の概念を崩壊させた。そしてその幻想はもう二度と戻ってこない。馬鹿みたいだけれど、私にとっては、それくらい初めて出会った異性に声をかけるという行動は高尚なものであってほしいという願いがあった。笑えてしまうくらいに夢見がちだけれど、本当だ。
私はちょっとだけ強くなりナンパをされたからといっていちいち落ち込んだり考えることはなくなった。簡単に断ることもできるようになった。今、私が目指すのは男性が声をかけられないくらいの美しい女性になることだ。外見も内面も。歩いているだけでオーラが溢れるような、魅力のある女性になりたい。それくらい美しい女性になれたとき、きっと気軽に声をかけてくる男性はいなくなるだろうと信じている。そして、これから出会う男性は軽々しいナンパの手口などをするような人ではなくなっていることを、私は未だに夢見ている。