「あんた、犬じゃなくて、ちゃんとええ人見つけやあ」
実家の柴犬(オス)と戯れているときに母親に言われたことば。
「うん……。分かってるよ」

長年付き合った彼氏と別れてしばらく経って、気付けば干物化

アラサー独身女である私は、最近、あまり男性と関わっていない気がする。女性が多い特殊な職場ということもあるのだろう。うーむ、出会いはないですなあ。
そんな私でも恋のキュンキュンを欲しているのだろう。ドラマや漫画で疑似恋愛を楽しんでいる。うわあ、きゃー、俳優の○○さんかっこいいわあって胸が高鳴り照れつつ、でもこんな素敵な人、現実の世界では、なかなかいてないからなあと、一方で冷めた目で見てしまっている。

大学生のときから付き合っていた彼氏と別れてから、しばらく恋愛をしていない。別れたばかりのころは、無理や、一人で生きていけないというナイーブで乙女な気持ちになっていたが……。今はすっかり一人で気楽に過ごせる喜びを味わってしまっている。休みの日、時間もお金も自分の好きなように使えるなんて! うわーい!って感じである。干物女に拍車がかかっている。あらやだ、私、最近恋をしていないわ。

一人を満喫していても、やっぱり人恋しい気持ちもあって

えっ、これって、ひょっとしてまずいのかな。どんな人と結婚したいかって? うーん、包容力があって、優しくて思いやりがあって……。あと、ありのままの自分を受け入れてくれる人かな。お互いのだめなところも、いいところも受け止められるというか。喧嘩したときも、ちゃんと話し合って解決できる人がいい。
……って贅沢言いすぎなのかな。ありのままの自分を認めてくれる人が、ちゃんといるのか、ちょっと自信ないけど。本当にこんな私を好きになってくれて、結婚したいと思ってくれる人がこの世にいるのか、アラサー独身の私は、だんだん少し不安になってきている。フリーで気楽な自由を楽しんでいる一方で、どこか人恋しく思ってしまう。ほんと、人間ってめんどくさい生き物だ。

愛犬と結婚できたらいいのに でも彼には好きな子がいる

そうして毎日、愛犬と一緒に過ごしていく中で、ああ、この子と結婚できたらいいのにという思いが出てきた。
飼い主バカなのだろう。なんてイケメンなんだと本気で思っている。高い鼻に、くりくりした大きな目。お互いの顔をじーっと見つめ合っているとき、私はうっとりとした時間を過ごしている。厚みのある胸を抱きしめたときの幸福感。夜道で不審者に遭遇したときも守ってくれた。なんて男らしいのだろう。この子が人間だったらいいのになあ、なんて。あらやだ、漫画の読みすぎだわ(笑)

そんなうちの犬ですが、好きな子がいるらしい。毎日、健気にその子の家に通っている。
相手は、近所のおじいちゃんが飼っているメスの柴犬、ハナちゃん。散歩をしていると、ぐいぐいとハナちゃんの家の前まで、ロープを引っ張って会いにいこうとする。大きなガラス戸なので、ハナちゃんがいつも外からオープンな形で見えている。ハナちゃんはうちの犬より3歳年上らしい。なるほど、年上の女が好きなのか。ハナちゃんは気まぐれだが、気分が乗っているときは、自分の頭をうまいこと使って、ガラガラガラと、戸を開けて出てきてくれる。そして、遠慮がちに鼻を近づけてくるのだ。最後はお互い嬉しそうに鼻をぶつけ合い、あいさつをする。私はそれを横で羨ましい気持ちで見ている。
いいねえ、恋してますねえ。私もいつかいい人を見つけるわ。あっ、できたら雰囲気が犬に似た人がいいわ、なんてね。