あの人に謝りたいこと。

夫婦別姓、ジェンダーレスメイク、女性管理職、専業主夫。男だから女だからと性別で何かを決めつけるのは時代遅れだ。

ジェンダーレスを唱える私のそうでない過去

私がジェンダーに関心を持つようになったのは、大学に入学した頃からだろうか。国際系の学部は何故か女子学生の割合が高く、かつ留学生や海外生活の経験者も多かった。授業だけでなくジェンダーの研究をするサークルまである環境におかれて、女ってもんは...なんて冗談でも口に出してしまう男子がいれば大炎上になっていたと思う。
さらに私が交換留学先に選んだタイでは男女差別が日々の生活で感じられることはほとんどなく、両親は共働きで同じくらい稼いでいるという友人が多かった。しかも18のジェンダーがあるなんて言われていて、同棲カップルやトランスジェンダーの人を見かけることは何も珍しくなかった。

男女平等!フェミニスト最高!ジェンダー差別断固反対!なんて言ってそうな私にも、知らず知らずのうちに偏見だらけで、周りの人のことを性別によって分類してしまっていた時期があった。今から考えると信じられないのだけれど。

遡ること10年、中学受験に失敗して地元のヤンキー校に通って3年目になっていた私は、もちろんヤンキーにはなれず、いわゆる青春時代の輝く汗にじむ運動部にも入らず、かといって帰宅部はなんかいやで、ちょうどよい家庭科部に属していた。
同学年は私と二人だけで、仕方なく副部長になりながらも、なんだかんだクックパッドで見つけたアーモンドフロランタンというサクサクのスイーツに挑戦したり、今なら絶対に選ばない黒地にピンクのハイビスカス柄の浴衣をミシンでコツコツ縫いあげたり、帰る間際の掃除の時間は後輩とほうきを片手に歌って踊ったり、割とそれなりに、いや結構楽しんでいた。

女子ばかりのなかで異色のひとりを色眼鏡で見た

新入生の部活動体験の週、意外と家庭科部が好きで存続に希望をかけていた私は、新入生をテレビショッピングで398!と叫んでいそうなとびっきりの笑顔とハイテンションで迎えていた。
数えるほどの現所属部員と、体験入部に来てくれた1年生のほとんどが女子の中、一人だけ男子のAくんがいた。女子の中に男子がいるというだけでとても目立っていた。体験入部の一週間、部員中ではAくんの話で持ちきりだった。男の子なのに裁縫が好きって珍しいよね。他の1年生と仲良さそうだけど女友達が多いのかな。もしかしてそっち系だったりして。

Aくんは入部してくれた。とても温厚で笑顔が可愛くて、優しい子だった。雑用も文句を言わずに率先してやってくれて、他の部員からの信頼も厚かった。いつの間にかAくんは家庭科部にすっかり馴染み、男子だけど裁縫や料理が好きな変わった人、なんて見方は誰もしなくなっていた。
Aくんとは1年しか部活で関われなかったし、中学生の頃だからSNSも無く、私は彼の連絡先も知らないまま卒業した。その後どこに進学したのかはもちろん、今何をしているのかも知らないし、正直名前も忘れてしまった。

もう一度出会えたら、Aくんに謝り、そして励ましたい

私がお正月におよそ1年ぶりに帰省する際、バスの中で昔中学が一緒だった人を見かけた。その人はあの穏やかな部長でも、やんちゃな1つ下の後輩でも、そしてもちろんAくんでもない、話したこともない人だった。
Aくんもまだこの辺りに住んでいるのだろうか。一度でも会うことができたなら、私はきっと彼を驚かせてしまう。なぜなら彼に真っ先に伝えたいこと、それは、「ごめんなさい。」の言葉だから。

体験入部に来てくれた時、男の子だからというだけで色眼鏡で見てしまってごめんなさい。男性が女性の中に一人でいることも、裁縫や料理をすることも何もおかしくない。むしろ一流のファッションデザイナーやシェフは男性の方が多いくらいだ。
Aくんはとても良い部員でみんなから愛されていたよ。家庭科部に入部してくれてありがとう。そしてもし、今も女性的と言われがちなこと、女子力高いなんて言葉で揶揄されるような趣味や特技があっても、自信を持ってその技や情熱に磨きをかけてください。
そう伝えられたら良いのに。