きょうだいの中で、私だけ変な名前をつけられた。弟は父の好きな野球選手から、妹は母の好きな映画からとった名前だが、私だけはなぜか、父が江戸時代の名づけ本を参考にしてつけたらしい。父はよく話を盛るので、実際は昭和くらいの本かもしれないが、とにかく不満だ。

父を恨む奇妙な名前だが苗字はかっこよく、合わせるとしっくりくる

性別が判断しにくい名前で、幼稚園児から社会人になるまで、男の子と間違えられ続けた。意味も最悪で、「弟が生まれますように」という願いが込めてある。私の名前は弟のために犠牲になった。父を一生恨む。幼稚園では名前が恥ずかしくて、名札を裏返して歩いていたことを覚えている。大して意味がなくてもいいから、女の子らしい普通の名前がよかった。

奇妙な名前だが、苗字と合わせるとしっくりくる。高校に入ってから、名前をからかわれることよりも、「ペンネームみたいでいいね」と言われることが増えて嬉しかった。私の変な名前も不思議な響きにしてくれる苗字が大好きだ。我が家は、漫画や小説で美形のキャラクターに使われるような、かっこいい苗字なのだ。先祖代々農民だが、苗字だけは貴族のような響きである。

妹とはよく「うちよりもかっこいい苗字の人じゃないと結婚したくない」と話し、最近見つけたかっこいい苗字を報告し合った。結局、どんなにキラキラした苗字でも、我が家の苗字が自分の名前とぴったり合うので一番という結論になる。

結婚し、ありふれた名前に変更。不満を言い続けたら優しい夫が怒った

残念ながら私は今、M田という普通の苗字になってしまった。ありふれた名前で、明らかに旧姓よりもランクダウンである。婚姻届を出す直前まで甘く見ていたのだ。夫はリベラルだし、私がいかに自分の苗字が好きか知っている。さらに、改姓に伴う事務作業は夫のほうが圧倒的に得意なはずなので、私は苗字を変えずに済むだろうと期待していた。私に苗字を変えさせた点をのぞいて、夫は完璧な人だ。結婚前は「人生うまく行きすぎでは」と思っていたが、大事なところでうまく行かなかった。

この平凡な苗字の下にあると、名前の奇妙さが目立って嫌だ。漢字一文字違いの芸能人がいるのも嫌だ。「M田さん」と呼ばれるたびにもやもやする。改姓したのが不満で、ことあるごとに夫に文句を言った。それが2年間続き、優しい夫もさすがに怒った。

リベラルな夫が苗字を変えたくない理由を聞き、今は夫の姓を優先

夫婦喧嘩の結果、夫が苗字を変えたくない理由は、在日コリアン4世という出自から来ていることがわかった。曾祖父母の代で始まったばかりのM田家は、苦労しながら家系を存続させてきたらしい。なにか危機があればすぐに消えてしまいそうで、M田を減らしたくないという気持ちがあると言った。在日コリアンの家族を描いた、ミン・ジン・リーの小説『パチンコ』に「日本は、こちらがどんなに愛しても自分を愛してくれない継母に似ていた」という言葉があったのを思い出す。

理由の重さ対決、完全に敗北だ。私はただ苗字が大好きなだけ。我が家は少なくとも14代前から日本の東北に住んでいるし(これも父が盛っているかもしれない)、親族も多いので、家系の存続なんて考えたこともなかった。

とりあえず今は夫の姓を優先し、選択的夫婦別姓が認められたらすぐに私は旧姓に戻すことで合意した。それからは夫に文句を言っていないが、どちらかが苗字を変えないといけない現状にはずっと怒っている。早く私のアイデンティティが取り戻せますように。