幼稚園に入ったときから、身長順に並ぶと1番後ろだった。
小学5年生で身長160cmを超えていた私は、小学生によくある“自分と異なる性質を持つ人をからかう”には打って付けの餌食だった。
でも、そのときの私は、からかわれても「負け惜しみ言わないで」「羨ましいんでしょ」と言い返していて、さほど気にしていなかったと記憶している。

しかし、中学生になって170cmに到達した私の心は、ひどくえぐられた。私の身長に対してかけられる言葉に、“女として”という視点からのナイフが加わった。
「デカい女とか無理なんだけど」。
告白してもいない、好きでもない男子にフラれた気分になった。デカい女はかわいくない、恋愛対象外だということを突き付けられた。
「俺の好きなタイプは…」直接言われることはなくても、教室のどこかで交わされる会話が耳に入っただけで、私の背中は丸まり、縮まっていった。どうせ私は対象外なんだ。

平均身長ならどれほど気楽にいられただろう。どんどん猫背になる私

女友達からの言葉にも苦しめられた。私は同級生の女子の中で一番身長が高く、周りの友達はみんな、平均的な身長だった。
私に対して「背が高くて羨ましい」と言ってくれた友達が、他の友達と「やだ~、私大きくなりたくない。背小さいほうがかわいくない?」と話しているのを聞いてしまった。
休み時間での数人での会話。みんなは冗談で、笑いのネタとして、何かにつけて“デカい”ことに触れた。
「デカいから彼氏作るの大変だね」「デカいから男子も怖がってるよ」
デカいから。デカいから。言われるたびに、私は必死に口角を上げていた。

平均身長だったら、どれほど気楽にいられたのだろうか。
私は誰からも恋愛対象とされずに一生を過ごすのだろうか。
そんなことばかり考えていた私は、自分に自信なんて全くなかったし、どんどん猫背になっていった。

頭のてっぺんを押すと背が縮むという話を信じて、家に帰ると両手で頭頂部を押さえつけるのを日課にしていたときもあった。
学校で言われたことを思い出して、自分の部屋で壁に爪を立てながら泣いたことも何度もあった。

私の世界を変えた、平均身長174.5cmの高身長女子会

頭頂部を押さえつけた効果があったかは分からないが、身長は170cm前後を保ったまま、私は大学生になった。そしてここから、私の世界は変わった。

サークルに入り、他学部の175cmの女の子と出会った。社交的なその子は、「180cmの子と173cmの子がいるよ!」と教えてくれて、すぐに4人で遊びに行った。
平均身長174.5cmの高身長女子会。学部も出身地もバラバラだったが、私たちはすぐに打ち解けた。“高身長女子あるある”は、話し始めたら止まらなかった。

私が挙げた“高身長女子あるある”はネガティブなものが多かった。その中で、みんなが話した面白エピソードや“高身長でよかったこと”を聞いて、私は驚いた。
高身長でいいことなんて無いと思っていた。みんな、私のように嫌な思いもたくさんしてきたはずだが、それを感じさせなかった。

今まで私は“自分には似合わないから”と地味な服装をしていた。一方、みんなはカジュアル系、ゆるふわ系など、それぞれ自分の好きな服を着ていた。その姿は堂々としていて、とてもキラキラして見えた。みんなは私に、丈の足りるファッションブランドを教えてくれた。

4人で街中を歩くととても目立ち、道行く人たちの視線をやたらと感じた。しかし私たちは「見られてる見られてる!」と声を潜めて笑った。
横に並んで気を付けの姿勢で、全員首から下しか写っていないプリクラを撮った。落書きにはそれぞれの身長を書いて、笑った。

気付いたらずっと笑っていた。今までは、身長についての話題は嫌いだったのに、その女子会では身長の話しかしていなかった。無理やり口角を上げる必要がなく、自然と笑っていた。

彼氏ができ、ヒールのある靴を履いてお洒落を楽しめるように

そして、私に彼氏ができた。彼は身長180cmで、車道側を歩いてくれたり、力仕事をやってくれたり、高いところの物を取ってくれた(本当は私も届くんだけど)。生まれて初めての女の子扱いだった。
今まで“かわいい”とは無縁だと思っていた私に、「かわいい」と言ってくれた。外見ではなく、内面をよく見て「そういうところが好き」と言ってくれた。

今まで自信がなくて地味な服装をしていた私は、高身長女子会で教えてもらった情報を参考にしながら、お洒落を楽しむようになった。
彼の隣にいると自然と背筋が伸びて、ヒールのある靴も選ぶようになった。

たくさんの人に出会うようになったぶんだけ、身長に対して嫌な言葉をかける人に出会ってしまう回数も増えたが、何も気にしなくなっていた。

今まで過ごしてきた環境、見てきた世界はなんてちっぽけだったのだろうか。
「身長」なんて、自分の特性のほんの一部なのに、大きな塊として私の頭の中を支配していたことに気付いた。今までマイナスにしか捉えられなかった身長を強みとして考えられるようになった。

中学・高校時代に泣いていた私には、こんな未来は全く想像できなかった。
世界は広い。きっと、まだ知らないこと、出会ってないことはたくさんある。私はとてもわくわくしている。