「迷ったときはシンプルに」
先生のことばは、今も私を導いてくれる。

高校時代の恩師のことば。
生徒だったとき進路や部活で悩んで先生に相談すると、必ずそうアドバイスしてくれた。
あれやこれやと言われるよりも、よっぽど説得力があったし、妙に納得できた。
だから、大人になってからも時々思い出していた。

そして今まさに。
再び、私に必要なことばだ。

優しくて穏やかで小柄で素朴な先生だった。
だけど、まっすぐに私たちを見つめるその目には、芯の強さのようなものが現れていたのをよく記憶している。

例えば進路相談。
生徒の気持ちを尊重してくれるのはもちろんだったが、指導者としての意見もはっきりと述べていた。そこには躊躇いがなかった。言うべきことは言う。
気持ちの良い人だった。先生は決して目立つ先生ではなかったけれど、みんなからとても信頼されていたと思う。

先生はきっとシンプルに考えて、前に進んだんだ

そんな先生とのお別れは意外と早くやってきた。
先生の離任が決まったのは、2年生にあがるとき。そのまま担任継続だと思っていたから驚いた。
担任を途中で降りるというのは、迷いや葛藤があったかもしれない。事実、当時の先生に否定的な発言をする人もいた。
だけどきっと、先生はシンプルに考えたのだ。そして前に進んでいった。
先生は、私たちの高校を離任した後、着々とキャリアを重ね、ある高校で教頭になり、今は校長をしているらしい。
私は嬉しかった。一教師として一つの正解を見せてくれている、と思った。

あの頃みたいに、先生に相談したら同じこと言われるんだろうな。
もう私は社会人で大人で、先生の生徒ではないけれど。
私はとても迷っていた。
今の仕事を辞めるか、このまま続けるか。
だから先生の言葉を思い出した。

いろんな理由を全部剝がしてみたら、シンプルな答えがそこにあった

シンプルに、私はどうしたいのか。
時期とかお金の事情とか転職市場とか、そういうものは全部抜きにして。
辞めたいと思っているのか、辞めたくないと思っているのか。
答えは明白。
いろんな理由をくっつけていただけ。
全部剥がしてみたら、シンプルな答えがそこにあった。
「私、この仕事辞めたい。」
だったら、私がすべきことは一つだ。

あんなに迷っていたのに、こんなにもあっけなく答えが出た。
友達や先輩、家族にもたくさん相談して、答えを探していたのに。
「迷ったときはシンプルに」
当時の先生の声で再生される、このことばに私はまた助けてもらった。
これは、私が私のために決めたことだ。私がこの答えに責任を持つ。
まだ何も始まっていないけれど、この答えは間違っていないんじゃないかと思う。

もし、どこかで偶然先生に会えたのなら伝えたい。
生徒だったときも、卒業して数年経った今も、何度も何度も私を導いてくれてありがとう。
これから先も、幾度となくこのことばを思い出すのだろう。

「迷ったときはシンプルに」
そして私は、自分で道を見つけていく。