私は、結婚している。
この結婚が正解だったのかどうかはわからない。
ただ、どうしても結婚したかった、この人と。半ば、意地だったと思う。
付き合って6年目に、彼は彼氏から夫になった。
彼は高校の同級生。同じクラスにはなったことがなかったけれど、仲の良い友達が同一人物だったから、いつの間にか一緒にいることが増えた。
そんなありふれた出会いから、卒業をきっかけに付き合うことになった。
彼の浮気。それでもいつか彼とまた一緒に過ごしたいと願った
初めての彼氏。幸せだった、楽しかった、新鮮だった、失うなんて考えられなかった。
それなりに喧嘩もしながら、それでも順調に付き合っていた。と、私は思っていた。
付き合って4年の月日が経ったある日、別れは突然告げられた。
理由が全くわからなかった。昨日まで幸せだった。別れを予測させる雰囲気さえなかった。
今思えば、初めての彼氏にどっぷりつかってしまっていた私は文字通り盲目だったのかもしれない。
納得できず何度理由を尋ねても、「俺じゃ幸せにできない」としか言われなかった。
社会人になる春、私は彼を失った。新生活に胸を躍らせているはずだった。
踊るどころか全てを失ったような喪失感に見舞われた。
別れた後、共通の友人から彼が浮気していたことを聞いた。信じられなかった。
とてつもない嫌悪感にさいなまれ、1週間で5キロ痩せた。
それでも彼を失いたくなかった。全てを聞いたうえで、それでもいつか必ず彼とまた一緒に過ごす日々を送りたいと思った。
言霊を信じ、唱え続けた。周囲にも必ず戻ると宣言していた。
別れて半年の月日が経ち、彼と戻るためにしていた自分磨きにも疲弊しつつあった。
もうやめよう、彼に固執するのは。そう決意し、自分の誕生日をリミットにした。
私の誕生日までに彼と戻るきっかけを得られなかったら私はもう前に進もう。
初めての彼氏、恋は盲目、そのせいで私は彼に依存していた。執着していた。自分でもよくわかっていた。だから私たちは別れたんだ。私はそう思えるようになっていた。
そして私は誕生日を迎えた。もう大丈夫、進める、そう決心できていたからか、不思議と無意識に過ごせていた。
何が何でも復縁して絶対結婚してやる、と決めていた
しかし、鳴ったのだ。携帯が。画面にうつる通知には彼の名前があった。
心臓が大きく脈打った、急に心拍数があがる。さっきまでの決心はどこへいったのか、あっという間に心は揺さぶられた。
震える手で通知を開くと「誕生日、おめでとう」とメッセージがきていた。
私はここで、新しく前に進む選択はできなかった。彼のメッセージを無視できなかった。
そこからポツリ、ポツリとメッセージをやりとりするようになった。
付き合うか付き合わないか、あのじれったくも楽しい時期の気持ちを思い出すような日々だった。
やりとりをするようになってからは、私はもう決めていた。
何が何でも復縁して絶対結婚してやる、と。まさに「意地」だ。
ある日、一緒に映画を見に行くことになった。別れてから会うのは初めてだった。
じれったい距離感だった。触れられない距離感だった。
その日から少しずつ会うようになっていた。ただ、付き合っていない距離感で。
ある日、夜中に「会いたい」と連絡がきた。あれだけ都合のいい女になるのはもうごめんだと思っていたはずなのに、私の足はすぐに彼の元へ向かっていた。
彼に会うと抱きしめられた。ここまで足は運んだが、そこまで都合のいい女になりさがるわけにはいかなかった私は、はっきりしない関係で触れ合う気はないと伝えた。
もう一度やり直そうと言いかけた彼を遮って、私は別れた理由も知っていることを告げた。
それでも私と一緒にいたいと思うなら、覚悟をもってもらわないと戻ることはできないと伝えた。信用もなくしているから、信じさせる努力をしてくれないと戻れないとも伝えた。
ここは譲れなかった。私はもう二度と彼との別れは経験したくなかった。
彼は少し黙って、「一緒にいよう」と言った。私たちは一緒に暮らすことにした。
一年後、出勤前で慌ただしく支度をしている私に「結婚する?」と彼が突然訪ねてきた。
一瞬時が止まったように感じた。なんだこのムードのないプロポーズは、と不満も頭には浮かんでいた。浮かんでいたのに、流れたのは涙だった。
私は彼と結婚した。別れたとき、ボロボロになっていた私を支えてくれた友人たちもみんな祝福をしてくれた。ただ、私は振られた本当の理由を誰にも言えてはいない。
いろんな思いは飲み込んだ。復縁してからの彼は本当に誠実だった。私だけがそれをわかっているからそれでいいのだ。
この結婚が正解だったかはわからない
結婚してから1年が経った。この結婚が正解だったかはわからない。
ただ、夫と過ごす時間は楽しい。
結婚してから2年が経った。この結婚が正解だったかはわからない。
ただ、私のお腹には新しい命が宿った。
結婚してから3年が経った。この結婚が正解だったかはわからない。
ただ、私たちの元に全てを許したくなる天使がやってきた。
結婚してから4年が経った。この結婚が正解だったかはわからない。
ただ、天使はすくすく成長し、彼女に会えただけで私の人生には意味があったと思える。
ただ、夫とは仲直りができる喧嘩を繰り返しながら笑い合えている。
私は夫しか知らない。初めての彼氏は初めての夫になった。来世ではもっといろんな人と付き合ってやる!と思っているし、また来世でも一緒になりたいな、などとは全く思っていないし、この結婚が正解だったかはやはりわからない。
ただ、結婚してから10年経った時にまだ一緒にいて、20年経った時も一緒にいて、最期のその瞬間に一緒にいたら、きっと正解ではなかったとしても間違いではなかったと言えるのではないだろうか。意地だけは強いのだ、私は。執着も得意なのだ、私は。
別れたって、一人で生きていくことを決めたって、誰かと一緒に生きることを選んだって、それはどの選択も間違ってはないと自分で示すことがきっとできる。
この結婚が正解かどうかはわからない。ただ、私は今毎日怒ったり泣いたり笑ったりしながら幸せだ。