「自己肯定感を上げるには」
「自分を好きになろう」

以前より頻繁に巷で目にするフレーズである。
現代は自分を愛し、自己への肯定感がある程度高いほうが良いという風潮が強まっているように思う。
実際、自分を肯定しているひとのほうが生きやすいだろう。
失敗したり落ち込んだりしても、少なくとも自分だけは必ず自分を認めてくれるから。

かくいうわたしもそのムーブに乗っているひとりである。
平均体重範囲内だが色白なせいでなんとなくぽちゃぽちゃして見えるわたしの体型は、昔よくからかわれていた。
みんなが多感な時期だった。
相手は比較的仲の良い友だちだったので、真剣に「傷つくから言わないでよ」と立ち向かったことがある。
すると彼らはこう言ったのだ。
「本当にデブだったら冗談でも言えるわけないじゃん!冗談だからいじれるんだよ」

ひとことでわたしがどれだけ支配されるかを想像しない、軽い口ぶりだった。
そのころから自分の見た目へのコンプレックスがどんどん根を張り出した。

彼らの「冗談」で好ましいとすら思っていた自分の見た目がいやになった

心の奥深いところにまで伸びた根は、なかなかしぶとかった。
鏡で自分の顔や身体を見るたびに、涙が出た。
それまではなんとも思っていない、好ましいとすら思っていた自分の見た目がいやになった。
二重じゃない自分の目がいやで、低い鼻も、153cmしかない身長も、ぽちゃぽちゃした体型も、全部きらいになった。
彼らの「冗談」で、わたしは変えられてしまった。

それから10年の間に、状況が変化し始めた。
髪が染められるようになり、メイクができるようになり、コンタクトを着けるようになった。
SNSには助けになるさまざまな情報があふれていたし、昔よりずっと垢抜けたと言われるようになった。

恋人もできた。
両親や親友に悩みを吐露し、論理的で現実的なアドバイスをもらったり、心理学を勉強したりした。
見た目だけでなく中身から自分を変えたくて、もうなんでもいいからとにかくこの問題をどうにかしたい、という気持ちだった。

好きな人の彼女になっても幸せじゃない。自分を好きになれなくて

だけど、やっぱり根が深すぎた。
どんなに努力しているつもりでも、自分が好きだな、と思う瞬間は一時的にしか続かなかった。
彼氏が前に付き合っていた人、彼氏が好きな芸能人、彼氏の女友だちと自分自身を比べては「自分は十分じゃない」と思い涙がこぼれた。
好きな人の彼女になってからも、幸せじゃなかった。

そうして、初めての彼氏とは約2年付き合ったのち終わってしまった。
自分に自信がなく、彼氏を疑うような言葉を何度も浴びせてしまった。
「傷つきすぎて、好きかわからなくなった」と言われ、フラれてしまった。

「世界の見方を変えるだけ」彼は私を変えないけれど、たしかに変わった


それから3年が経ち、今の彼氏とはほぼ1年付き合っているが、やはりわたしが抱える問題は大きい。似たような事案で何度も彼を傷つけてしまった。
自分への自信の欠如から、彼は自分にはもったいないと思い、相手をわざと傷つけて離れさせようとしてしまったり、相手の愛情を試したりしてしまう。

悪い癖はなかなか手強い。
だけど、親友や寛大な彼のおかげで、本当に少しずつではあるけれどわたしは変わってきている。
彼を幸せにしたい。
そしてわたしはわたしも幸せにしたい。

「存在しない問題を探そうとしなくて良いんだよ」「彼はあなたを本当に大事にしているよ」とわたしにわかってほしいと思い、努力を続けてきた。
「俺は超長期的な目線でみてるから」と笑う彼は、わたしの奮闘ぶりを見守ってくれる。

それでもどうしようもなくて、努力しても自分を好きになれない、いつになったら変われるんだよと泣きながら彼に話をした夜があった。

そのとき彼はこう言った。
自分を変えようとしなくていい、と。
「めばえが世界の見方を変えるだけなんだよ。それだけでめばえはもっといろいろなことができるよ」

彼は決してわたしを変えない。
けれどもそのひとことで、たしかにわたしは変わったのだ。