社会人3年目の秋。1つ歳上の男の先輩に、「結婚したら辞めるんでしょ」と言われた。
新卒で働き始めてから他人に言われた言葉のうち、トップ3に入る衝撃の一言だった。
結婚して仕事を辞めるなんて、考えたこともなかった
私は金融系のシステムを開発・保守するエンジニアとして働いている。
システムを構築・改修するプロジェクトをマネジメントすること、ユーザからの問い合わせやトラブルに対応し、業務を支援するのが仕事だ。
大学時代は日本文学を専攻していたが、思い切ってこの業界に飛び込んだ。
なぜこの職業を選んだのか、主な理由は以下2つだ。
・専門性を身につけ、柔軟に転職・再就職が可能な市場価値の高い人材になりたいから
・生涯独身でも、離婚しても、配偶者が働けなくなっても、ひとりで家を買えるくらいの収入を確保したいから
私は自分と大切な人の一生を守るために、この仕事を選んだ。
仕事は難しく、慣れるまで数年掛かった。数え切れないくらい泣いたし、周囲と衝突したこともある。明日が来るのが怖いと思ったこともある。
でもそんな苦労以上に、この仕事で得られる経験と給与は私にとって大切なものだ。
結婚して辞めるなんて、考えたこともなかった。
黙っていたら、周囲の人に私の意思は伝わらない
先輩からその言葉を掛けられたとき、自分がその場でどう反応したのか、覚えていない。
あまりにもショックだったからだ。
家に帰って、様々なことを考えた。
女性が1割しかいない職場で浮いているのかな、とか、コンサバなファッションが好きだから結婚相手を探しに来てるように見えるのかな、とか、仕事への取り組み方が足りていないのかな、等々。
でも一通り考えて、こう結論づけた。
私のことを何も知らずに、そんなことを言ってくる先輩が悪い。
私は誰に何と言われようと、真剣に仕事に取り組んでいる。そして、仕事をして自分と家族を守る覚悟を決めている。
だがひとつだけ、改めようと思ったことがある。
黙っていたら、周囲の人に私の意思は伝わらない。
私のスタンスは口に出して伝える必要がある、と。
その日から、私は仕事をずっと続けるつもりだと、事あるごとに明言するようにした。
結果が目に見えるものではないが、少なくともそれ以降、同じことを言われたことはない。
欲を言えば、私の言葉を聞いた人が、他の女性に対しても、「結婚したら辞めるんでしょ」と思わなくなったらいいな、と思う。
これからも、自分と家族を守るために働き続ける
後日談だが、その先輩は、1年後に転職していった。
出社最終日に挨拶に来てくれたとき、私はとびきりの笑顔で言った。
「今までお疲れ様でした! 先輩の分まで私、定年まで頑張りますね!」
結局、あなたのほうが先に辞めてるじゃん、と心の中で呟きながら。
私は勤続5年目の今、結婚2年目にも突入した。
私は夫よりも少し年収が高い。
夫は完璧に家事を分担してくれ、私が激務の時は、何も言わずにサポートしてくれる。
もちろん、夫が忙しい時は私がサポートする。
私は夫を愛し、感謝している。そして、心の底から私たちは対等な関係だと感じる。
もし、夫が自分よりもすごく高収入だったら、夫に対して遠慮するような関係になったと思う。そして自ら家事を一手に引き受けて、苦しんでいただろう。
頑張って仕事を続けることで、私は純粋な愛情で繋がった関係を守ることができている、と思う。
これからも、自分と家族を守るために、働き続けていくつもりだ。
挫けそうになったら、先輩のひとことを思い出して、負けるもんか、と自分を奮い立たせようと思う。