慢性リンパ性白血病を発症したのは、四年前。診断された時は相当なショックだったものの、時間をかけて病を受け入れ、わたしの体で増え続けるガン細胞もわたしの身体の一部と考えるようにしてきた。その名も細胞ちゃん!わたしの細胞ちゃんは穏やかな気質なのか、これまで悪さを働くことはなかった。だから、この四年間、細胞ちゃんと一緒に博士論文を書いて、大学院を卒業し、一緒に就職した。そんなわたし達の前に結婚という次なる壁が立ちはだかった。
結婚の誓いは細胞ちゃんとは関係ない!
白血病×恋愛の映画では、弱りゆくヒロインを無力感に苛まれながらも愛し続けるイケメン俳優が出てくる(気がする)が、わたしのイケメン俳優はどこだ。というか、細胞ちゃんの存在を知った上でわたしを愛し続けてくれる人などいるのか。などと複雑に考えたり、まあとりあえず彼氏を作ろうかと陽気に考えたり。結局、南国育ちで楽観的なわたしが手を出したのは、今流行りの(?)マッチングアプリであった。
そしてついに出逢ったのが、今の彼なわけだが、病気のことを言い出せずに早一ヶ月。正直に言おう、彼のことがちゃんと好きになってしまった今、細胞ちゃんを紹介して…けれど将来がないことを理由に振られてしまうのが怖い。
結婚式では「病めるときも健やかなるときも」と誓うわけだが、すでに病んでいるわたしを彼はどう見るのだろう。そう悩むわたしにとって、結婚は未来を誓い合う単純なものなんだろう。10、20年後、人や社会が大きく変わっても、わたしだけは変わらずあなたの味方でいて、側にいます、と誓うことなんだろう。
待て、これって結構すごいことじゃない?これって別に細胞ちゃんがいてもいなくても誓うことの難しさは変わらないんじゃない?未来なんて誰も見えないんだ。わたしだって結婚していいんだ!彼が誓いたいと思える日が来るのかは分からない。誓えなくとも、それが細胞ちゃんのせいとは限らないんだ。半身浴をしながら、彼のことを考えながら、そんな結論を出した。
明日も一緒にいることを誓って欲しくて、細胞ちゃんを紹介する
細胞ちゃんが暴れ始めたのは、1週間前。体調は良好だが、顎のリンパ節が腫れ、もともとあった二重アゴに拍車がかかってしまった。血液検査を受け、CTを撮って、入院する時が来たと知らされた。
人生なかなかにドラマだ。人生初の入院は怖い、だが未だに細胞ちゃんのことを彼に話せていないことの方がずっと大きな悩みだ。何と切り出すべきだろう。たった一ヶ月の交際期間で、わたしを手放したくないと思ってもらえるだけの愛情は育めただろうか...くぅ~ちくしょう!誰しも未来が見えないんだから、いつ病める日が来るのか分からないんだから、もはや結婚してくれ!そして明日も一緒にいることを誓ってくれ!!と荒ぶりながらも、呼吸を落ち着かせ、彼に細胞ちゃんを紹介しよう。
おちつけ、わたし!おちつけ、わたしの細胞ちゃん!