事が起きたのは、忘れもしません、小5の夏期講習でした。
当時私は周りの子よりも成長が早く、背はすでに157cmで止まっていたもののクラスで一番大きく、ニキビもクラスの誰より早くできましたし、初経も早かったせいか学校ではよくからかわれていました。男子から外見に関する心無い言葉を浴びせられることもしょっちゅうでしたし、自分でも自分の体や性格がコンプレックスで、その頃の思い出は辛かった思い出ばかりです。

初恋、会話の中心になれる新しい居場所

しかし、良い思い出もあって、その多くは中学受験用の塾でのことです。当時、教育熱心な親のおかげで合格実績が良くて有名な進学塾に通っていました。塾の人達には学校の男子とは違って、外見などには目もくれずに成績の良い人を尊敬するような空気があって、そのサバサバとした価値基準がキラキラかっこよく見えました。そこには同じ学校の男子も数人通っていましたが、塾では学校とは違う風に自然に話すことができて、私はとても塾の雰囲気を気に入っていました。

小学5年生にもなると多くの子は好きな人ができて、宿泊行事では「恋バナ」話に花が咲くものです。私の初恋の相手はもちろんこの塾でできました。塾では毎週席替えがあって大抵男子と女子は隣同士になるので、生徒にとって席替えはドキドキするイベントでした。まだ恋を知らない私は最初その席替えに何の感情も沸きませんでしたが、ある時3週間連続で席が近くなる男子がいました。
その子はあきらくんと言って、野球が大好きな色の白い明るい男の子でした。あきらくんは私の外見をからかう男子とは違って、他のかわいい女の子と私を対等に扱ってくれましたし、面白くて、それでいて算数の問題に取り組む時の顔があまりに真剣で近寄りがたい雰囲気がありました。今こうして思い出して描写してみるとまるで私が最初からメロメロだったように感じられますが、当時はこの感情が恋とは気づかず、席が近くなれたら嬉しい、気づくとあきらくんを見てしまっている、そんな自覚くらいしかありませんでした。

苦い初恋の舞台は、皮肉なことに、私が当時幸せの絶頂を感じていた時でした。あきらくんと私はクラス分けテストで同時に一番上のクラスに上がり、席も隣になり、浮足立っていました。私は休み時間の度にあきらくんに話しかけ、その会話に周りの生徒も参加して、会話の輪ができていました。学校では会話の中心になることなど考えられない環境にいた私は、その状況に途轍もない高揚感を覚えていました。

自分の気持ちを優先。他人の迷惑に気づけなかったあの頃

その結果、私はあきらくんと話すことよりも大勢で話すことを優先してしまったのです。いつも始まりは斜め前に座っていたM君をあきらくんに呼ばせて3人で話すところからでした。しかしM君は、当たり前ですが、勉強に集中したかったのです。私の「邪魔」が休み時間だけでなく授業中にも入るようになってからは、特にM君もあきらくんも迷惑そうにしていました。
それから間もなく、M君が他校に移ったと聞きました。私はすぐ自分のせいだとわかり、申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで塾にいるのが辛くなりました。その後、大学受験用の塾であきらくんに再会し、そこで自分の昔の恋心に気づくのですが、再会したあきらくんはどこか私を警戒しているような雰囲気でした。
私の謝りたい相手は私の高揚感のために学ぶ場を侵害してしまったM君とあきらくん、そして大好きだった塾のサバサバした雰囲気です。彼らの所在もわかりませんし、謝って何か変わる訳でもないですが。今でも時々思い出しては当時の優越感への執着を恥じて、現在の行いを顧みています。少しでも贖罪になると信じて。