自動車教習所の卒業検定前日、私は不安に打ち震えていた。
その苦手な教官は、検定に落ちることを予想するかのような言い方で
大学一年生の夏休み、私は自動車教習所に通っていた。夏休み中に運転免許を取りたいという気持ちで、自分なりに精一杯頑張っていた。
でも、私は普段から自分に自信が持てない性格。卒業検定が近づくにつれて、少しずつ不安な気持ちが芽生えてきた。
卒業検定の前、卒業検定に進めるかを見極める回。教習車の助手席に乗ったのは、私が一番苦手だった指導教官だった。
苦手な人を隣に乗せてびくびくしながら運転する私に、教習の最後、その人は高圧的に言った。
「卒業検定に進んでも良いけど…まあ合格できるかは分かんないね。やってみれば」
まるで、私が卒業検定に落ちることを予想しているかのような言い方だった。
私は落ち込んだ。
自分を励まそうと、自動車教習所の帰り道にあるコーヒー店で、大好きな抹茶フラペチーノを飲んだ。だめだ。
好きな本を読んで、気持ちを紛らわそうとした。だめだ。
何をしていても、不安な気持ちが心の大きな部分を占めていてつきまとう。
気づいたら涙を流していた。膝を抱えて泣いた。
思わず弱音を吐いた私に母が投げかけた言葉。腹をくくった
その夜、自分の部屋で一人不安と戦っていると、ひょっこりと母が現れた。
「明日、卒検でしょ?頑張ってね」
私は、母の言葉に思わず弱音を吐いた。
「そうなんだけど…自信がなくて、不安なんだよね。緊張で、今日はあんまり寝れなそう。明日になってほしくないな」
少し間を置いて、母は言った。
「何事も、始まらなければ終わらないからね」
この言葉を聞いて、私はハッとした。
確かに、不安はある。
でも、「自分がこのまま卒業検定を受けなければ、いつまでたっても運転免許は取れない。ここで始めなければ、終わりは来ないのだ」と実感した。
ならば、やるしかない。腹をくくった。
覚悟ができたら自然と眠くなってきて、私はそのまま眠りについた。
母の言葉を何度も言い聞かせた。やってやるぞという気持ちが湧き出た
迎えた、卒業検定当日。
車に乗り込む前、私は母がくれた言葉、「始まらなければ終わらない」を何度も自分に言い聞かせた。言い聞かせるたびに、自分の中からふつふつと、やってやるぞという気持ちが湧き出てきた。
そして、ついに運転席に乗り込んだ。
緊張していた。けれど、覚悟を決めた私は、1つ1つやってきたことを繰り返すだけだと思って、目の前の一瞬に集中することを意識した。
結果、私はミスなく卒業検定をクリアした。
無事にクリアできたことが嬉しくて、真っ先に母に報告した。
母からの「おめでとう」のLINEで、私の喜びはより一層増した。
運転免許を取った後、私はほとんど運転席には座っていない。
それでも、何か困難に直面した時、後ろ向きな気持ちになった時、私はいつもあの時の母の言葉を思い出す。
「始まらなければ終わらない」、それは、自分に自信がなかった私が、一歩前に踏み出すきっかけをくれた言葉。そしてこれからも、私の背中を押してくれるであろう言葉。