私は謝りたい人がいる。その人は生きている。しかし、届くことは二度とない。
だから、私は苦しいのだ。謝らねばならないのに、知らないどこかへ消えてしまったのだ。

幼い頃、私は家族と暮らしていた。父と母、弟が私にはいた。そんな家族と幸せな暮らしをしていると思っていた。
しかし、今、大人になって思うと、本当に幸せだったのだろうか。そんなふうに思ってしまうのだ。

「なんで私なんか産んだの」心の疾患になりつらかった私は母に叫んだ

なぜか、まず、大人になるまで気が付かなかったが、ガリガリで栄養失調のまま私も弟も育っていたからだ。十分な食事が出てくることはなかったのだ。
やせ細っているのは体質だなんて思っていた。だが、どうやら違っていたようだ。
そして、私は、高校生になる頃、体を壊し気がつけば引きこもりになっていた。栄養が足りないせいで、きっと、体を動かすことができなくなっていたのであろう。ストレスで心の疾患にもなり、人に会うのも怖くなってしまった。
そして私は母に叫んでしまった。

｢なんで私なんか産んだの、産まなきゃよかったのに｣
そう言ってしまったのだ。その時がつらすぎて、叫んでしまったのだ。

気がつけば、突然ドアの音がして、母は家からいなくなり、消えていた。明日には帰ってくるだろう、1週間後は帰ってくるだろう、そろそろ帰るだろう、なんて謝ろうか........そんなふうに毎日考え、玄関で待っていた。

｢ごめんなさいしなきゃ｣
そう思っていた。でも、何ヶ月経っても帰ってくることは無かった。玄関で物音がする度に、帰ってきたのではないかと扉を開けるが、母の姿はもう見ることは無かったのだ。

複雑な感情が合わさり答えがでることはないけど、母に伝えたいこと

私は母に謝りたいのだろう。今、大人になって思うと、本当に謝りたいかはわからない。母が好きなのか、また仲良くしたいと思うのか、母に対してひどいと訴えたいのか、怒っているのか、自分でもよくわからず、答えはない。
私を育てず捨てたという感情と、私が出ていかせてしまったという感情。複雑な感情が合わさり、答えはでることはない。

でも、ひとつだけ、母に言えることはある。
｢酷いこと言ってしまって、ごめんね。一生懸命、頑張ってくれてありがとう｣
それだけは、母に伝えたい。

なぜなら、母は一生懸命頑張っていたからだ。家事や育児が下手なだけだった。別に浮気とかじゃないと思う。
家事や育児ができない自分に限界を感じて、きっと自分を責めすぎて、ここにいてはいけないと、出て行ってしまっている気がするのだ。
だから、母に対しての感情は複雑で答えはないが、私の叫んでしまった言葉は、ちゃんと謝っておきたいと思うのだ。