高校生の頃の話。もう10年前になる。

全校生徒のうち男子生徒の割合が、常に5%以下という“ほぼ女子校”で、初対面と打ち解けるのが苦手なわたしにしては珍しく、自分から「どうしても仲良くなりたい」と思う子がいた。

顔がもろタイプだった「レイ」の相方になる大作戦

それがレイだった。レイはボーイッシュで、少女漫画の王子様みたいな子だった。細い身体のラインに黒髪アシメ、じゃらっとピアス、パンキッシュでとにかくかっこよかった。なにより、顔がもろ好みだった。

勇気もきっかけもないまま2年に進級するとき、運がわたしに味方する。そう、クラス替えだ。自分が何組になったのか確認したすぐあとに、探したのは彼女の名前だった。心の中はガッツポーズだ。

新学期、策を立てた。当時レイのいちばんの仲良しであったエリナをまず攻略することにしたのである。理由は簡単。エリナとは出席番号が前後で、常にわたしの後ろにいたからだ。それは友達作りとして、ごく自然なことで、エリナを介して徐々にレイとの距離を詰めることに成功するのである。

レイは、わたしにとって、“高校時代でいちばん仲の良かった友達”となった。元々エリナの立ち位置だった“レイの相方”は、気づけばわたしになっていた。

少女漫画のような高校生活。私はレイに惹かれていたのかもしれない

サヤカという女の子がいた。サヤカはレイの中学の同級生で、大きな瞳にピンクのリップ、くるくるに巻いた髪、ハーフアップの結び目には大きなリボン。漫画から出てきたような可愛い子だった。

ものすごく独占欲の強い子で、レイのことがとにかく大好きで、それをちゃんと体現出来るわたしとは真逆の子だった。

自称“レイの彼女”。わたしとレイの関係性が気に入らないようで、サヤカはよくわたしに「べーっ」と舌を出したあと目の前でレイの腕を取りさらっていった。それも漫画のようで、今ではいい思い出である。

レイは元々、他人との物理的距離が近い子だった。すぐ人の頭を撫で、二の腕や頬を触る。天然の人たらしなのだ。

じいっと目を凝視され、わたしが「なに?」って聞くと「リリイちゃん可愛いね」って曇りの無い表情で平然と言い放ち(ふざけても口説いてもなくただ突然言う)、なんの躊躇いもなくギリギリまで顔を近づけてくるレイは、今考えても、どう考えても何かしらの扉が開いても仕方ないと思う。今一度言うが、レイの顔はわたしの好みのドストライクだ。

正直、きっかけさえあればなにか起こったのかもしれなかった。そう思っているのは、こちらだけなのだろうか。

まだ本気の恋愛もする前のことだ、恋愛と友情の“好き”の見分けなんてついていなかった。当時の気持ちを酸いも甘いも噛み分けた、今ならどう感じるだろうか。友情ではない方に、軍配が上がる気がしてならないのである。

レイもわたしも大人になったけど、今でも17歳だった頃に戻る

高校卒業の半年くらい前、わたしに初めての彼氏ができた頃、進学やら就職やら卒業間近でバタバタする時期なのも相まって、そのあたりで普通の女友達に戻った感覚が心なしか、ある。

もし違う未来、だったら。可能性はゼロじゃなかった。

レイとは未だに1~2年に一度会っては、あの頃のようにラーメンを食べて、カラオケに行って、大人になったからお酒を飲みに行く、そんな関係が続いている。

社会人になって、オフィスカジュアルに身を包み、髪を伸ばしたレイは贔屓目なしにめっちゃくちゃ美人だ。

そんな彼女は、今もわたしをじーっと見つめては「可愛いね」と言う。そのときの眼差しは、あの頃と同じだ。

隣に座って目を見られるたび、わたしたちは毎日ふたりでいたあの17歳の日々にタイムスリップする。

今も彼女に会いたい。本当のことは聞けないし、言えないけれど、全部なくなって本当の春がきたら、彼女に会いに行こう。