履歴書が書けなかった。3年生の1月から大学のキャリア支援の人や、先輩などに相談していた。相談するたびに、参考になること、自分の経験談を教えてくれる。力をもらって、いざ一人になって書きはじめると勢いが急に止まる。「自己PR」がわからない。欠点を埋めようと行動してきたこれまでの努力は成功していた。だから、それが劣等感になるとは、就職活動をはじめるまで気づかなかった。

アピールの仕方が分からなくて、何度も「自己PR」が変わった。福祉系の大学を選んでいながら、少しもその業界に就職するつもりがなかったから、手当たり次第に一般企業を選んで、そのたびに企業に合いそうな「自己PR」に変えた。何度相談しても、変わらなかった。わたしを探る方法を教えてくれても、わたしがどんな人か、何がやりたいのか、何ができるのかは知るはずもない。

旅行に行くフリをして、深夜の高速バスで地元を出た

自己分析がうまくいかないなら企業から探そう。夜中にSNSチェックするみたいに就活アプリを眺めていると、地元から離れた新聞社がおすすめされた。学歴がいいとはいえない、文章を書く努力をしたわけでもない、新聞を毎日読んでいるわけでもないわたしには無理だろうと思った。でも、通っている大学の採用実績がある、締切3日前に見つけことにも背中を押され、説明会の予約をした。

キャリーケースにスーツとパンプスを詰め、旅行に行くフリをして、深夜の高速バスで地元を出た。途中で雪の積もる山を見て、別の土地に来てるなあと感じた。
6時間ほどかけて到着し、ホテルにチェックインしてすぐスーツをハンガーにかけた。次の日の10時からスタート。朝に余裕を持たせたくて一日前乗りした。

インタビューテーマは「私の一番好きなこと」

当日、場違いなんじゃないかと緊張しながら会場に向かった。どの人にも、興味を持って話をする人事の方のおかげで緊張はとれた。

一通り説明を聴いた後、インタビュー体験を行った。インタビューテーマは「私の一番好きなこと」。誰にも負けないぞくらいの熱意のあることについて、インタビューをするお題だった。2人ペアで、相手の好きなものを新聞記事として発表する。
地元出身で、今は都内の有名な大学に通っている男の子とペアになった。軽く自己紹介をし、インタビューの順番を決めた。最初は相手の男の子がインタビューする側、私がされる側。

インタビューテーマは、何かを伸ばそうとしなかった私には引け目を感じるものだった。とりあえず一番好きなものを音楽としてインタビューに望んだ。何で好きだったかなんて考えてこなかったからペラペラの内容になりそうと予想していたが「なぜ好きなの?」「いつから好きになったの?」答えていくうちに、ただ直感で好きなだけじゃなく好きになった理由が自分なりにあったと気づいた。初めて口に出したことが多かった。

私がインタビューする側に回ったときは倍ぐらい質問した。相手は「高校野球」が好きで、甲子園に毎年行ってる話や、なぜ「野球」じゃなくて、「高校野球」なのか、熱心に話してくれたから。興味がなかったのにもっと知りたくなった。「たくさん質問思いついてすごいね」と言われ、ご機嫌で自分の席に戻った。原稿用紙の少ない字数に聴いたことをいかに詰め込めるか?ちょうどよくマスを埋め、満足して発表の時間を待っていた。

聴いていて、「わたしすてき」と思った

2~3組発表が終わり、中盤くらいに発表。前に立ち、15名くらいに向かい、わたしが書いた記事から発表する。読んでみるとなんだか、さらっとすぐ終わった。

相手の男の子の発表の番。聴いていて、「わたしすてき」と思った。おお~と感嘆する空気も感じた。記事から浮かび上がるのは魅力的でおもしろそうな人物だった。全部わたしが言ったこと。誇張していない。同じ事実でも組み立て直して伝え方を変えるだけでこんなに違うなんて!インタビューってすごい。

一方私が書いた記事は?相手の子は私より熱意のある要素は盛りだくさん。それなのに熱意より、行動したことの情報を並べて紹介しただけのつまらないものになっていた。
自分が言ったことで、ある要素で、魅力的な人に見せてくれたら、無駄なんて思ってたのは言い訳で、魅力的になれると言えちゃうじゃないか。

大したことのないよう軽くしていたのは私だ

欠点を埋めるために行動してたんじゃない。「わたしすてき」と思いたくて行動してたんだ。伝える努力を考えることを怠っていたからいつまでも、たくさんある穴を埋めなくてはすてきにならないと右往左往していたのか。過去の、今までのわたしは後悔することなく全力でがんばっていたのにね。大したことのないよう軽くしていたのは私だ。

恥ずかしいことに、今までは才能がうらやましいといじけて終わりだった。でもこの時は違った。私もこんな風に書けるようになりたい。すてきだと思っていることをこんな風に伝えられるようになりたい。どうしても。その気持ちを知っただけで来てよかったと心から感じた。

説明会が終わり、バスで駅に向かう間、参加した子と話しながら帰った。インタビューで話していた音楽についてきかれ、「そういうことみんな知りたいと思うよ」と言われた。その言葉が私には意外だった。
ペアになった子とは発表後話す機会がなく、わたしが感じた感動も、書いてくれた記事に対しての感謝も伝えることができなかった。これからはいろんなことをもっと伝えてみようと思った。

いつか「わたしすてき」「あなたすてき」と伝えられるように

そう感じてから一年がたった。新聞社は結局履歴書が書けずエントリーできなかった。4年生の2月。内定はない。今は国家試験の勉強に専念して就職活動はストップしている。急には変われない。インタビューされたときの感動を他の人にも、インタビュー力を自分もできるようにするというのがどんな職かわからないままである。でも、大学で学んできたこと、これから受けるだろう福祉の仕事、わたしがやりたいこと、すごく近いものがあると気づいた。選んできたことに意味があったと思う。

今は遠くてもいつか「わたしすてき」「あなたすてき」と伝えられるよう働きたい。