これは、自分のセクシュアリティがまだ定まっていなかったときのお話。
20歳を過ぎても一度も恋人ができない、それどころか人を好きになることも滅多にない状態に焦りを感じた私は、好きな人ができないのは出会いが少ないせいだと考えて、マッチングアプリに登録した。
「また会いたい」そう思った相手なのに、手をつないだら不快だった
何人かの相手とメッセージのやりとりをするうちに、とある人と話が盛り上がって実際に会うことになった。彼は私と同い年の学生で、音楽好きという趣味が合った。
1度目のデートは、彼が探してくれたお店でのランチ。食事をしてすぐに解散したから、相手が私のことをどう思ったのかもわからなかったし、自分自身の気持ちの動きすら感じとることができなかったけど、その後すぐにデートのお誘いがあったので再び会うことにした。
2度目のデートは少し時間が長くなり、夕方くらいからカラオケに行き、その後ディナーという流れになった。私が好きな男女ツインボーカルのバンドの曲を彼が練習していて、カラオケで一緒に歌ってくれたのが嬉しかった。前回とは違って心から楽しいと思える時間を過ごすことができた。このときは、また彼に会いたいなと素直に思っていた。ところが、食事を終えて駅に向かう途中で、私の心がざわつく出来事が起きた。
「恋人っぽいことしませんか?」と、彼に差し出された手。
言われるがまま手を繋いで駅まで歩いてみたら、なぜか不快な気持ちになって落ち着かなかった。さっきまであんなに楽しかったのに。彼のことが生理的に無理とかいうわけでもないのに。
たかだか手を繋ぐだけのことに抵抗を感じるなんて、さすがにウブすぎはしないか?と自分でもツッコミを入れてみたけど、どうしても耐え難いことだった。
3度目のデート、「好き」と言ってくれた彼に誠実に向き合った
彼は3度目のデートに誘ってくれた。恋愛経験が乏しい私でも、3度目のデートがどういう意味を持つのかくらいはわかる。期待をさせてしまっていたら申し訳ないなと思いつつ、嫌いになったわけではないのに誘いを断るのも違うなと思って、会って正直に自分の気持ちを伝えようと思った。
3度目のデートでは水族館に行った。彼が魚にアテレコしてくれたのが面白くて、一緒に過ごす時間はやっぱり楽しかった。でも、手を繋ごうと言われたときには、「付き合う前に手は繋ぎたくない」とはっきり断った。
その後食事をしたレストランで、予想通り「好きです、付き合ってください」と告白された。
私は丁寧に、自分の気持ちを説明した。一緒に過ごしていて楽しかったのは本心だけど、3回しか会っていなくてお互いのことをまだよく知らないし、まだ友達でいたいと。
彼は、「すぐ付き合うんじゃなくてまた一緒に出かけたりしよう」と言ってくれたけど、ショックを隠しきれないようだった。
デミロマンティック・セクシュアルの私にはマッチングアプリは向かない
私は後悔した。付き合う気がないのであれば、もっと早い段階で関係を断つべきだっただろうか?恋人関係になって、手を繋いだりキスをしたり、スキンシップを取ることに抵抗はあったけど、人としては好きだったのに。
彼と友達になれたらどれだけ良かっただろうか。でも、恋人を探すためのマッチングアプリで出会ってしまった以上、それを望むことはきっと許されることではない。私のせいで、彼の気持ちを振り回してしまった罪悪感が残った。
私のセクシュアリティが、感情的な繋がりのある人にしか滅多に恋愛感情を抱かない「デミロマンティック/デミセクシュアル」だと自認してからは、無理に恋人を作ろうとすることはやめた。時間をかけないと恋愛感情が育たない私にとって、どんなに相手がいい人だったとしても、3回のデートで「付き合う」という答えを導くのは不可能だ。合理的に恋人を探すことのできるマッチングアプリは便利だけど、そのスピード感は私には適していなかった。