「あ~ご飯美味しかったねぇ」
「ゆりちゃん、今日のご飯美味しかった?」
夕食でのたわいも無い会話だ。
その数分後、祖母はトイレで亡くなった。
脳卒中だった。
祖母と最期に会話したのは、当時高校2年生の私だけだった。
いや、会話していなかった。私はその時、無視したのだ。
優しい祖母が作る夕食は、いつだって豪華で美味しかった
両親が共働きのため、平日は弟と2人で、夕食を電子レンジで温めて食べる生活を送っていた。
そんな私たちを祖母は不憫に思ったのか、毎週金曜に夕食を作りに来てくれた。祖母が作る金曜日の夕食は、温めやすいようにタッパーに入ったご飯とは違い、サラダ・ハンバーグ・スープとフルコースだった。そのため、私は食卓がカラフルになる金曜日が楽しみだった。
そしてなにより、祖母は優しくて穏やかな人だった。2人同時にマシンガンのように話す私達に対しても、真剣に向かい合って聞いてくれるのだ。時に、一緒に笑って時にアドバイスもしてくれる。決して怒ることがなく、いつも私を肯定してくれる存在だった。
にも関わらず、私は祖母に対して無視してしまったのだ。
友達と喧嘩した訳でもなく、学校が嫌だった訳でも無い、ただただその日、「おばあちゃんをウザく感じた」それだけの理由で無視したのだ。
祖母の質問が何となくつまらなく感じて、会話を避けた
当時のことは覚えている。その日は木曜だった。祖母から「金曜は来れないから、前の日に行く」と連絡があったからだ。
木曜当日、両親はいつものように仕事で弟は塾に行っていた。家は私と祖母の2人きり。向かい合って座っているものの、会話はない。
テーブルの横でテレビが流れている。テレビの番組には特に興味もなく、聞き流していた。そして、祖母は「学校楽しかった?」などと私に質問を投げかけて気を遣ってくれた。
当時の私は祖母の質問に対して、中身がなくてつまらない、そんな事聞いて何になるの?などと思い、それ以上の会話を避けるため「別に」と素っ気なく答えていた。
その数十分後におばあちゃんに会えなくなるとは知らずに。
本当に本当にごめんなさい。
自分の態度が憎たらしい。
「夕食美味しかったよ」。たった一言で良かったのに
あの時、木曜に前倒しにしてまで夕食を作りに来てくれたおばあちゃんに今でも感謝しております。
唐揚げ美味しかったよ。2度揚げしたって言ってたの覚えてるよ。
ムスッとして食べてたけど、本当に美味しかった。
無愛想にしてごめんなさい。無視してごめんなさい。
あの時、祖母はどんな気持ちで席を外したのか、今でも考える。
きっと、私達のために腕に寄りをかけて作った夕食だったのに、あんな仕打ちをされて辛かったでしょう。悲しかったでしょう。腹立たしかったでしょう。
今となっては本人に聞くことすら出来ない。
なぜあの時、しょうもない理由で無視してしまったのか、そんな自分に腹が立つ。
「そうだね、夕食美味しかったよ」って言ってあげれば良かった。
ただその一言で良かったのに。後悔しかない。
私は、そんな祖母に謝りたい。