思ったことを飲み込んで生きている。
社会に出れば、大人になれば、一度は経験したことがあるのではないだろうか。
思ったことをそのまま口に出すことは、子供であれば純粋無垢と評されて許される。
だけど大人になると、途端にそれは許されなくなる。
デリカシーや常識、他人の気持ちへの配慮、道徳等々、さまざまなことが複雑に絡み合ってくる。
純粋無垢だった筈の言葉が、誰かを傷つける凶器となり得ることを大人は心得なければならないのだ。
子供の頃の私だったらきっと言っていたことも、今の私には言えない。
喉の奥まで迫り上がってきた言葉も、上手く飲み下す。
だけど、私にはそれが癖になりすぎてしまったようだ。

「置くだけだから!」とレジに割り込むおばちゃんに微笑む私

先日、ドラッグストアで購入する品物を選びレジへと向かうと、店員さんがカウンター内にいなかった。
店内を見回すと、どうやらレジにお客さんがいないタイミングを見計らって品出しをしているらしく、商品を陳列している店員さんと目が合った。
「少々お待ちください!すぐに行きます!」と言う店員さんの言葉に従い、レジ前で大人しく待つことに。
そのときだった。
おばちゃんが私に「あんた、並んでるの?」と声を掛けてきた。
「はい。いま店員さんがレジにいなくて、来るのを待っています」と答えると、おばちゃんは「そう!じゃあここ置かせて!」と私の前に割り込み、商品をレジに置いた。
いや、確認した上で割り込むんかい!と思ったら、おばちゃんは見透かしたように「置くだけだから!ね?置くだけ!」と念押ししてきた。
そういや私はすぐに顔に出るのだ。
「あぁ、はい。どうぞどうぞ」と笑顔を作った。
いや、なんで笑顔。
順番抜かされてんのに。
愛想良くしてどうすんの。

「お待たせしました~」「ピッ」はい、そうなりますよね~

ほどなくして店員さんが「すみませんね~。お待たせしました~」と謝りながらレジに来てくれた。
待ったのは構わないんですけど、あの、抜かされてるんですよね。
「ピッ」
あー!!やっぱりそうなりますよね!!順番抜かしたおばちゃんの商品、スキャンしますよね!!!わかります!!!!わかっておりました!!!!
「◯◯円になります」店員さんは丁寧に言った。あの抜かしたおばちゃんに。
おばちゃんはまるでいま気が付いたかのように「えー!?私は先頭じゃないのよ。あの人が先頭よ。先に並んでたのはあの人よ」と言った。
言うんだ。いま。そっか。なんで?
店員さんは「いや、もうスキャンしたのでお支払いお願いします」とスルー。
そりゃそうだ。
抜かしたおばちゃんは「えぇ~!?悪いわぁ!!だってこの人が先に並んでたのにぃ!!悪いわぁ!!」と、大袈裟に言いこちらを見やった。
ちょっともう面倒くさい。
とっとと支払ってどいてくれ。
「いえ、お気になさらないでください」と、再び笑顔を作った。
「何を言っているの!?気にするわよ!!気にするからこうして言っているんじゃない!!!」と、おばちゃんは声を荒らげた。

相手の謎の逆ギレ。私はただ黙って許して微笑んでいただけなのに

……えっ?
もしかして私、怒られてる?
なんで??
なんでなの???
どういうこと????
さーっぱりわからずに「そうですよね。すみません」と謝った。
いや、なんで!!!!!!
待てよ。冷静に状況を整理すると、私が怒られていても仕方ないかもしれないから落ち着け。
まずレジの順番を抜かされて、私はそれを咎めずに笑顔で許して、結果として怒られてる。
……やっぱりおかしい。
絶対おかしい!!!変だってば!!!
うわああああああ!!!!!!
が、言わない。
大人だからだ。
飲み込んで生きてきた大人だからだ。
ここでワーワー言うのは子供だ。
私は誰もが憧れる素敵な大人!イイ女!
なんて言い聞かせたところで、ごくんと飲み込んだその言葉を、ここにこうして書かなければモヤモヤしてしまう時点で、まだまだイイ女にはなりきれていないのだろうけれども。